モロッコ映画の秀作「青いカフタンの仕立て屋」、そして「シェルタリング・スカイ」

普段はなかなか見られないモロッコ映画の「青いカフカンの仕立て屋」がとても良かった。
モロッコの古都サレの旧市街でカフカンという民族衣装の仕立て屋を営む中年夫婦の話である。夫のハリムが仕立職人で、妻のミナも店を手伝い、少し離れた集合住宅に暮らす。子供はおらず、助手として若いユーセフを雇い、依頼された青色の生地に金の刺繍をして服を作っていく。

「青いカフタンの仕立て屋」監督:マリヤム・トゥザニ 出演:ルブナ・アザバル サーレフ・バクリ他

「青いカフタンの仕立て屋」監督:マリヤム・トゥザニ 出演:ルブナ・アザバル サーレフ・バクリ他

日本の和服、韓国の韓服に似て、カフタンもシンプルだが、繊細で美しい伝統衣装である。この映画、モロッコの生活の仕方がいろいろと分かるのが、まずいい。夫が時々通う公衆浴場、時折遠くから響いてくるコーラン、独特の容器を使う食事の様子、お葬式の様子などが興味を引く。この女性監督の前作「モロッコ 彼女たちの朝」(2019)でも、主人公は手ごねのパンを焼いて売る店を営んでいたことを思い出す。

さて、書いてしまうと、妻はガンで衰弱して亡くなってしまう。ラストシーン、夫は妻に対して、アッと驚く行為を取る。その、妻への愛情を込めた「送り方」には涙を禁じえなかった。成程、その気持ちよく分かる、と思った。映画史に残ってほしい位、素晴らしいラストだ。
この映画は基本的に夫婦愛の映画であり、中国の貧しい地方で労わりあって暮らす夫婦を描いた今年の秀作「小さき麦の花」を思いだすが、この映画の面白さというか新しいところは、同性愛まで描いていることだ。見ていてええっと思った。
これまでの夫婦愛の映画の先を行っていると言うべきか、アジアでも西欧社会でもないイスラム社会でも、一筋縄ではいかない人間の複雑さや不可解さがあり、映画はそれを描いていると言うべきか。

具志堅用高と小林薫とジェームズ・コバーンをミックスしたような(?)、仕立て屋のオヤジがとてもいい。寡黙で実直で、でも同性への欲望もある人間を淡々と演じている。奥さん役のルブナ・ジバルもいい(「モロッコ 彼女たちの朝」でも主役)。彼女、段々、本当に体が小さくなっていくように見えた。弟子の若者は強い眼力があり魅力的。
ラストシーンは俯瞰で墓地やその先の海を映す。それまで撮影が家の中であったのが、カメラが外に出て、空間の解放感を感じる。この映画を見ると、せめて宝くじが当たったら、アフリカのモロッコに行って見たい、旧市街でアパートを借りて、1か月ほど過ごしてみたいと思ったりする。

さて、私たちアジア人はモロッコとは馴染みが薄いと思うが、この国はアフリカの最北西に位置し、縦に細長い。モロッコと聞いてパッと浮かぶ映画は、名作中の名作「カサブランカ」(1942年)。カサブランカの街が舞台。カサブランカとは「白い家」という意味だ。それから、時代がもっと古くなると、ディートリッヒの「モロッコ」(1930)だ。ラスト、砂漠で外人部隊の兵士ゲイリー・クーパーを裸足で追いかけるシーン以外あまり印象に残っていない映画だが。

『シェルタリング・スカイ』監督:ベルナルド・ベルトルッチ 出演:ジョン・マルコビッチ デブラ・ウィンガー

『シェルタリング・スカイ』監督:ベルナルド・ベルトルッチ 出演:ジョン・マルコビッチ デブラ・ウィンガー

好きな映画をもう一本! 先日、池袋の文芸座の大スクリーンで坂本龍一が映画音楽をつけている「シェルタリング・スカイ」(1992)を見直したばかりである。
1940年代にアメリカからモロッコのタンジールにやってきた作曲家の夫と作家の妻がいる。倦怠期を迎えているらしく、夫は地元の女性と、妻は一緒にやって来た若い男と不倫する。
サハラ砂漠横断の旅行の途中、夫が熱病に掛かって死んだあと、妻は砂漠を彷徨う。出会った隊商の長の家に行き、囲われる。その行為が、女が夫の死後、心が空っぽになったからなのか、砂漠で再生したのか曖昧なままだ。

尚、御存知かと思うが、イスラムにおける一夫多妻制は、そもそものスタートは、戦争で未亡人になった女性に生活の心配を掛けさせないため、資力のある男が4人まで「妻」として面倒を見ることであった。若い頃、羨ましい制度だなと思っていた自分がゲスで恥ずかしい。隊商の長は、そういう思いで、広い家に囲ったのだと思う。

32年前初見の時もそうだったが、前半はよくこの夫婦の心情が理解できない。しかし、後半、砂漠の美しさに圧倒されてしまう(ヴイットリオ・ストラーロの撮影が見事)。後半の妻の心情の理解などあまり気にならなくなる。この映画は、砂漠の美しさに圧倒されるだけで十分に満足できる映画だと思う。
坂本は、土俗的音楽、ワイルドな民族音楽を駆使して映画を盛り上げている。

(by 新村豊三)

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