移民を描くフランス映画の秀作3本「ウィ、シェフ」「ル・アーヴルの靴みがき」「君を想って海をゆく」

前回に続けてフランス映画を紹介したい。前回紹介の映画の他にも、今年良かった新作映画の題名を挙げると「それでも私は生きていく」「幻滅」「アダマン号の上で」(記録映画)「テノール! 人生はハーモニー」などがある。

監督:ルイ=ジュリアン・プティ 出演:オドレイ・ラミー フランソワ・クリュゼ他

監督:ルイ=ジュリアン・プティ 出演:オドレイ・ラミー フランソワ・クリュゼ他

中でも、特に移民問題をテーマにすると質の高い映画が登場する。今回紹介したい「ウィ、シェフ」がまさにそうであった(公開が5月で申し訳ない)。チラシを見て、軽く明るいエンターテインメント映画かと思ったら、何と、リアルで感動的な秀作で、しかも、快作の要素も持っている中々ない映画だった。

独身中年のコックであるカティ(女性)は、料理方針の違いから有名レストランを首になってしまい、仕方なく移民の少年たちの収容施設の給食係となる。その施設の少年たちはアフリカや中近東から来ており、成人前に就職しないと本国へ強制送還される厳しい事情がある。
最初は、貧弱な設備、少年たちや職員の食への関心のなさに不貞腐れるが、人出が足りず少年たちの手を借りて料理するため、少年たちに、皮むきから始まり料理の基礎を教えることになる。最初は、少年たちの事情を知らず厳しい態度を取っていたカティも、段々と少年たちを理解し受け入れていくようになる。

料理を通じて教える側も学ぶ側も成長していく。その過程にジンと来る。また、この自立支援施設で献身的に子供たちの世話をする初老の男女の先生も人間味が滲み出ていてとてもいい。(男の先生は、これも、貧しい移民の黒人と富豪のフランス人の交流を描き大ヒットした「最高のふたり」の、フランソワ・クルジェである)

シリアスなだけではない。チームを組んでコース料理の準備をしたり、子供たちに本物のフランス料理を食べさせてあげたりするシーンなどはとても楽しい。画面が生き生き弾む。
終盤の展開には全く驚かされた。カティは資金を稼ごうと、テレビの料理人対決番組に出場するのであるが。敢えてその展開を書かないが、真に面白く、「快作」と呼びたい所以である。

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自分が初めて、胸掴まれる様な衝撃を受ける「移民がテーマの映画」に出会ったのは2011年のフランス映画「君を想って海をゆく」であった。
フランスの最北端カレーに、イラクから流れ着いたクルド人の少年が、地元のスイミング教室でインストラクターをする中年男性と出会う。少年には海の向こう、イギリスのロンドンに暮らす恋人がいる。彼女もイラク人で、運よく、家族とロンドンに渡ることが出来たのである。少年は行く手立てがない。事情を知った男性は少年に水泳の手ほどきをする。ある日、単身、少年はウエットスーツを着て波の高いドーバー海峡を泳ぎ始める…。

少年の家族とて、何も来たくてフランスに来たわけではない。クルド人であるゆえにイラク国内に居続けると迫害を受けるのである。冒頭、トラックに乗って仲間と一緒に国境を移動するところから緊迫感があるし、失敗して命を落とす者もいる。着いても、カレーには移民を援助するグループと排除しようとする勢力がいる。中々いずこも大変であり、世界は複雑であると、認識せざるを得ない。

監督:アキ・カウリスマキ 出演:アンドレ・ウィルム カティ・オウティネン他

監督:アキ・カウリスマキ 出演:アンドレ・ウィルム カティ・オウティネン他

好きな映画をもう一本! 同じ様に難民を描くが、可笑しみがあり、ハッピーな終わり方になるのが、やはり2011年公開、フィンランドの監督アキ・カウリスマキがフランスの港町ル・アーブルを舞台に撮った「ル・アーヴルの靴みがき」だ。

初老の靴磨きが港でサンドイッチの昼食を取ろうとすると、警察に見つからないよう海に浸かっている(!)アフリカの少年を見つける。彼は、仲間と一緒にコンテナでル・アーブルに来て、警察から逃げ出したのである。教師の息子である彼は、キリっとした表情だが、母親のいるロンドンに渡りたいと思っている。
靴磨きは少年を家で保護し、同じように生活は貧しいが心暖かい仲間と協力して、船でドーバー海峡を渡らせようとする。実は、奥さん(カウリスマキ映画の常連カティ・オウティネン)は重い病気にかかり病院で大変な治療が始まったばかりである。

さあ、どうなるか。あっと驚くラストが待っている。映画の神様がほほ笑えんだような終わり方だが、笑って許したい。この世界、こうあってほしいと思うのだ。
いつものカウリスマキ映画のように登場人物たちは寡黙で不愛想。しかし、とぼけた味が滲み出て、ユーモアが醸し出されているのもいい。

(by 新村豊三)

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