フランスの夏の映画「プロヴァンス物語」「緑の光線」、そして「セーヌ川の水面の下に」

またまた酷暑の夏が続く。2年前、夏を描いた好きな日本映画を紹介したが、今回は外国映画にしてみたい。対象国は、今、オリンピックを開催しているフランスだけとする。

「夏の映画」なら第一に挙げるべきは、完全犯罪を行おうとして最後に失敗する、アラン・ドロンの出世作「太陽がいっぱい」(1960)だ。しかし、あまりにも有名な映画なのでわざわざ、ここで紹介する必要もないだろう(笑)。もし、未見の方がおられたら、撮影も音楽も素晴らしい名作中の名作とだけ言わせてほしい。
「太陽がいっぱい」は舞台が海だが、山が舞台の、私が好きでたまらない作品がある。1990年、1991年の連作「プロヴァンス物語 マルセルの夏」「プロヴァンス物語 マルセルのお城」である。

「プロヴァンス物語 マルセルの夏」監督:イブ・ロベール 出演:フィリップ・コーベール ナタリー・ルーセル他

「プロヴァンス物語 マルセルの夏」監督:イブ・ロベール 出演:フィリップ・コーベール ナタリー・ルーセル他

傑作映画「愛と宿命の泉」2部作(1986)の原作小説を書いたフランスの国民的作家マルセル・パニョルの自伝的小説を映画化した。
時代は20世紀初頭。厳格な小学校の先生である父、優しい妻、赤子と二人の息子の家族が、毎週末、プロヴァンス地方の田舎の別荘に出かけて、バカンスを過ごす物語である。
家族は経済的には豊かではなく、9キロの道を鍋や釜、調味料など台所用品を背中に背負い手に持って、歩いて岩山に向かう。

伯父さんもやってきて、父親は一緒に狩りをしたりする。父親は失敗を繰りかえす。子供の眼から見て、完璧だった父親のイメージが崩れていくのが面白い。兄のマルセルは地元の子と親しくなる。非常に人間味のある映画だ。少年時代、山で家族と貴重な時間を過ごした者が万感の思いを込めて、少年時代を愉しく語っているのがとても好きだ。

「マルセルの夏」は、主に父親への思いが語られるが、「マルセルのお城」では、母への思いが滲み出る。

前作から数年後、家族は、相変らず、一杯の荷物を持って、週末に別荘に向かうのだが、偶然、貴族の屋敷を通ればショートカットできることを知る。黙ってその道を通るか通らないかで葛藤するエピソードがとても面白い。その屋敷でのやり取りがラストの大きな伏線になるのが見事である。

後半、父親は教師を辞める事態も発生する。ここの家族、善も悪も、幸も不幸も順繰りに来る。そこが観る側の人生に重なるのではないか。ラスト近く、時間が一気に飛ぶが、マルセル少年は長じて映画産業で成功をおさめ、映画都市を作るため古い城を買う。そしてそこに出かけると..
ここから先の展開は、涙を禁じえない展開になる。親しき者も逝ってしまった後に感じる「人生の味」なのだろうか。この2作、隠れた傑作として一見をお勧めしたい。

フランス人はバカンスが好きだ。オリンピック開催中、パリ市民は、観光客を避けて早々とバカンスに出かけたという報道も目にした。バカンス映画が得意なのはエリック・ロメール監督。特別なことは何も起こらぬ日常的な話で、女性の主人公が多い。登場人物たちはとてもよくおしゃべりする。リアルでデリケートな演出が特徴だ。

「緑の光線」監督:エリック・ロメール 出演:マリー・リビエール リサ・エレディア他

「緑の光線」監督:エリック・ロメール 出演:マリー・リビエール リサ・エレディア他

忘れられないのが「緑の光線」(1987年)。パリに住むシングル女性が一人でバカンスを過ごさなければならなくなり、一人で旅に出かけるが心は鬱々としている。陽が沈むとき最後に太陽の緑色が見えると恋が叶うと聞いて、海辺の町ビアリッツで知り合った男性と見に行くだけの話。しかし、ドキュメントタッチで、登場人物に感情移入してしまう。一体、その「緑の光線」が見えるのか?繊細だが、感情を揺さぶる豊かな映画だった。

監督:ザビエ・ジャン 出演:ベレニス・ベジョ ナシム・エリス他

監督:ザビエ・ジャン 出演:ベレニス・ベジョ ナシム・エリス他

好きな映画をもう一本! 6月からネトフリで配信されている「セーヌ川の水面の下に」が、唖然とする大快作、大怪作、傑作サメ映画。
何とセーヌ川にサメが住んでおり、女性動物学者、水上警察、NPO保護団体などが入り乱れてその解決を図ろうとする。
水没している共同墓地の中がサメの巣になっていることが分かる。トライアスロン競技も絡むラストは、凄まじい。ここまでやるか、エスカレートするか、今まで数千本見た中でこんな仰天する映画はないと断言したい。好き嫌いを超えて、映画的興奮を引き起こす。

現在行われているオリンピックの便乗映画かも知れないが、一丁面白い活劇を作ろうぜという、フランス映画活動屋の映画魂が炸裂しているかのようだ。
そのラストの展開には好悪がはっきり分かれようが、一見に値する。また、作り手のアンチオリンピックのテーゼを深読みすることも可能だ。

(by 新村豊三)

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