ネタバレあり注意★邦画の大快作2本!「パンク侍、切られて候」と「カメラを止めるな!」

今年は日本映画になかなか面白い作品が相次いで登場する。今回は最近見て心底ぶっ飛んだ邦画の2本の大快作を紹介したい。
一本はベテラン監督が大手の東映撮影所で撮った作品、もう一本は名前も知らなかった無名の監督が無名の役者を使って撮ったインディペンデント作品。

まず一本目は大快作(大怪作でもある)の「パンク侍、切られて候」だ。基本的には時代劇なのだが、話も自由奔放、役者も狂っているかの如き怪演で、トータルしてメチャメチャ面白くて、既成の時代劇のイメージを遥かに超えている。

映画「パンク侍、切られて候」監督:石井岳龍 出演:綾野剛 北川景子 東出昌大ほか

「パンク侍、切られて候」監督:石井岳龍 出演:綾野剛 北川景子 東出昌大ほか

どんな話かというと、ある藩に浪人がやって来る。家臣の権力闘争があり、家老は野に下る。そこに、新興宗教の一団が登場し大勢力となり城を襲う。たまたま、外に出ていた殿をはじめとする武士たちは、ある動物の力を借りて、これと戦うというものだ。まっこと、奇想天外な話だ。
演じる役者の熱量が半端でない。出てくる人物はすべてキャラが立っているが、染谷将太が特に可笑しいというかノリノリの演技。ふんどし姿で、腹に渦巻き型の文様が入ったまま、踊りまくる。宗教の教祖を継いだ、顔に刺青の文様をした浅野忠信に至っては、もう本当に狂人のようである。
書くのを控えるが、ナレーションを務める永瀬正敏も唖然とするキャラである。抱腹絶倒、唖然とすること間違いない。よくぞ、こんなアイデアを思い付いたものだと感心する。またキャラは立っていても、人物たちがお茶目で愛嬌があるのが素晴らしい。アホでおバカな面がいっぱいあるのがいい。

敵味方入り乱れるラストの盛り上がりも尋常でない。SF映画っぽくなるエスカレートぶりだ。
他にも、いろいろな点でユニーク。「拙者は」と時代劇の言葉でしゃべりながらも、現代口語がポンポン出てくるのが可笑しい。新興宗教だって、オウムではないが、何やら現代の宗教に繋がってくるイメージもある。紅一点のクールビューティ北川景子は実に美しい。監督は石井岳龍

映画「カメラを止めるな!」監督:上田慎一郎 出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ他

「カメラを止めるな!」監督:上田慎一郎 出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ他

さて、今一本は「カメラを止めるな!」という作品。チラシはチープだがクオリティは高い。まずこの作品は前半と後半が大きく違う。前半は、ゾンビ映画を撮っている映画スタッフのところに本物のゾンビが現れ大混乱になるという「ゾンビ映画」なのだ。
私は所謂「ゾンビ映画」は肌に合わず、昨年かなり高評価を受けた韓国映画「新感染ファイナル・エクスプレス」もダメだった口だが、このゾンビ映画のエスカレートする面白さには映画的興奮を感じた。
首を切り落とし、斧で滅多打ちにし、鮮血を浴びて顔も真っ赤になり呆然と屋上に佇むヒロインを俯瞰で捉えたラストのショットなどなかなか映画としていい。しかも、これが37分のワンカットで撮られているのが驚きだ。疾走感と緊迫感が半端ない。

さて、実は、これは「ゾンビ映画」ではないのだ。ここから先はネタバレなので、読まないでもらいたい位だ。後半は、この映画がどうやって撮られたか、そのプロセスを描く映画へと変貌する。これが面白い!

映画を撮りながら、想像していなかった様々なハプニングが起きる。それを監督以下スタッフが、監督の家族まで登場して必死に切り抜けていく。事前に張られた伏線が上手く利いていてる。しかも人物やハプニングが人間くさいので場内爆笑に継ぐ爆笑になる。「ホラー」がいつの間にか最高の良質「喜劇」になっている。観客は大笑いしつつ、スタッフたちの映画つくりの情熱と奮闘ぶりに涙も出るかという状態なのだ。

見終わって、「お見事、サイコー!」と心の中で叫んだ。
映画は予算ではない、アイデア(すなわち知恵)で出来る!

この映画は口コミで面白さが広がっているようだ。新宿にある満員の映画館で見た時、上映後スタッフの方が登場して言っておられたが、一か月間、上映館は全て満席状態が続いているそうだ。さもありなんの大快作! 監督は上田慎一郎

(by 新村豊三)

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