今年、映画やテレビで活躍し、実力も将来性もあると思っているのが河合優美だ。これほど、ほんの数年で急にブレイクした女優っていないのではないか。
ドラマの活躍が目立つ。以前紹介したテレビ「不適切にも程がある」では、主人公阿部サダオの一人娘を演じた。タイムスリップの話だが、1986年(昭和64年)を生きる、スケバンのような長いスカートを穿き、ケバい化粧をした反抗期の中学生ツッパリ役がピッタリだった。高校生になると猛勉強を始め、上智大に受かったと記憶する。書いてしまうと、1995年の神戸の震災に遭遇する運命を背負っているところが哀切だった。
一方、昨年NHKで放送され、先日まで再放送された「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」では、父親は他界、弟はダウン症、おまけに母親が倒れて車いす生活になった家族を支える長女だった。普通の女の子がいろんな試練を経ていく。中高生、大学生、そして社会人を演じた。ブログに自分の家族を書き綴り大評判となり作家へと転身する(実話だ)。
全て自然でナチュラルに演じていた。演出が大九明子という映画監督で、自然な演技をさせつつ、画面に細かなカッティングを行い、死んだ父親の幻影が時折登場するファンタジックさもある興味深い演出だった。
役者が皆いいと思うが、ダウン症の弟役の吉田葵がとてもチャーミング。優しさと素直さが滲み出ていた。また、祖母役をなんと美保純が演じている。若い頃、「ピンクのカーテン」(1982)3部作の主演であっけらかんと脱いで我々を喜ばせてくれた、あの美保純だ。時は流れる。
河合は映画も多数出演している。印象に残っている作品を挙げると、今泉力哉の「愛なんて」(2019年)。瀬戸康史が店主である小さな古本屋に毎日の様にやって来る女子高校生役を演じた。「佐々木、イン、マイマイン」(2020年)では、急死してしまう青年佐々木の数少ない女の子の友人。詳述する余裕がないが、この作品は、東京で役者を目指す若者(藤原季節)が故郷甲府の高校時代の友人を悼む秀作。
さて、今年、6月に公開された映画「あんのこと」では中学生を演じる。若い役ばかりだが、本人は、まだ、日大芸術学部を卒業したばかりの24歳だし、あどけなさが残る顔をしている。この映画は、新聞の社会面の三面記事に載った実話を元にした、コロナの頃に自死した若い女の子あんの話だ。
痛ましい話である。自宅で母親にネグレクトされ小学校もきちんと出席していないあんは親からウリ(売春)をやらされ、シャブに手を出してしまう。警察に逮捕されると、ユニークな人柄の刑事(佐藤二朗)のお陰で段々と更生していく。親から自立し、女子用のシェルターに居住し、老人介護施設で働き始め、夜間中学で学び直しを始める。
あんは、冒頭、クスリのせいで、口を開けドロンとした眼つきをしているが、段々、彼女が本来持っていた優しさが出て、魅力的な笑顔が出るようになる。今日もシャブに手を出さなかったと、日記に〇をつけていく。そういう日々を積み重ねる。
しかしである。嗚呼、コロナが直撃してしまい、生活が一変する。非正規雇用としてバイトも打ち切られてしまい、夜間中学で学ぶ機会も失われてしまう。
周りもいい大人たちばかりでない。バカで鈍感な記者がいて、週刊誌に、ある記事を書いてしまい、そのせいで彼女は精神面のサポートが得られなくなる。演じるのは稲垣吾郎。彼は本当に人として「ずれた」人物を演じると上手い。あんは追い込まれていく。折角の日記も火を点け燃やしてしまう…
コロナ時代の記録として、あるいは、河合優美の優れた演技を見る作品として、見る価値がある。
彼女が出る新作映画をもう一本!「ナミビアの砂漠」という彼女が出ずっぱりの映画が公開されている。エステに勤務する女の子カナは21歳。若い会社員ホンダ(寛一郎)と一緒に暮らしているが、突然、ホンダと別れ、クリエイターのハヤシ(金子大地)と暮らし始めるも関係が上手くいかない。そんな現代風の女の子を、存在感抜群に演じている。
彼女の自然な演技、ぐにゃぐにゃした身体の演技、豊かな表情は見ていて面白い。しかし、正直言うと、シナリオが今一つで、ふわふわした本人のキャラが今一つ掴みにくい。ハヤシとカナが互いに惹かれた理由も良く分からない憾みがある。脚本監督はまだ27歳の山中瑤子。
(by 新村豊三)