【魅力的なアジア映画】シンガポールの「国境ナイトクルージング」、台湾の「本日公休」など

今回もアジア映画を紹介したい。まず、映画表現の質が高く、かつ、これは好きだなあと思ったシンガポール・中国の合作映画「国境ナイトクルージング」

「国境ナイトクルージング」監督:アンソニー・チェン 出演:チョウ・ドンユイ リウ・ハオラン チュー・チューシャオ他

「国境ナイトクルージング」監督:アンソニー・チェン 出演:チョウ・ドンユイ リウ・ハオラン チュー・チューシャオ他

映画の舞台となったのは中国の延辺朝鮮族自治州の首都延吉だ。ご存知かと思うが、多民族国家中国には、約192万人の朝鮮族が住んでいる。中国の東北に位置するが、人口66万を擁する中都市が延吉なのだ(因みに、東京の北池袋や新大久保駅周辺には、「延辺料理店」を目にする。羊の肉料理だ)。
私が、この延辺に関心があるためだろう、一際面白く感じられ、将来、観光で訪れてみたくなったほどだ。

この映画、一言で言うと、その「延吉」での、現代を生きて挫折感を持つ若者3人の出会いと数日の交流を描く青春映画だ。しかし、「青春映画」では括りきれない今の時代の中国の複雑な一面も出ているのがいい。それに、寓意と言うか様々に解釈出来るあっと驚く展開もあり(書けないが)、そこが映画として大いに面白かった。

まず、街が興味深い。雪と氷に閉ざされている。ハングルと中国語が飛び交う。看板も両方の文字が混在する。中国の観光客は、朝鮮文化を体験し、朝鮮料理屋で食事する。街には立派な本屋も、ディスコも動物園もある。
三人の若者のうち、女性は観光ガイドであり、青年の一人は彼女の知り合いで叔母の料理店で働いている。二人とも、中国の別の地からやってきている。もう一人は、上海から友人の結婚式に参加するため来た金融系のエリートサラリーマン。彼は心の不調を抱えている。
3人は、後半、長白山(中国語。ハングルでは「白頭山」と表現する。こちらはなじみが深い)の頂上のカルデラ湖である天池を目指して雪の中を進んでいく。物語として、3人の心情が全て理解できた訳ではないが、3人それぞれに存在感がある。

凍てつく自然の風景描写、疾走するバイクやトラックを写す撮影が見事にいい。加えて、音楽のセンスが抜群(普段、音に鈍い私でさえ、そう感じられたほど)。特に伏せるが、雪山で起きるクライマックスで、朝鮮半島の最大の民謡アリランが入るのが効果的だ。
さて、ヒロインは、一昨年見て大変良かった「少年の君」の女の子チョウ・ドンユイだ。やはり、アジアの女性はほっとする。
監督はシンガポール人。11年前に「イロイロ 温もりの記憶」を撮った監督だ。この映画、フィリピンからシンガポールの裕福な家庭にやって来たお手伝いさんと子供の交流を描いた秀作だった。

同じ中国が舞台でも、舞台が茶の生産地西湖(浙江省)である「西湖畔に生きる」は何だか変な映画だった。ミステリーめいた映画だろうかと思って見に行ったら、冒頭と終わりの中国4000年悠久の美しい自然描写の中に、激烈で人間くさく、こりゃなんだの、人間ドラマがゴロンと入り込んでいる。

茶摘みをやっていた平凡な母親が詐欺であるマルチ商法にのめり込むのだ。この女性の狂ったようなのめり方はスゴイ。髪型も化粧も衣服も変わり別人のようになった演技は一見の価値があろう。カンヌで上映されたというのでそれなりの評価はされたのだろう。まあ、この母親や詐欺グループが現代中国の資本主義の批判であることは間違いないが、母親の動機が金だけでなく、人々の耳目を集めたかったから、というのも人間の普遍的な真実かもしれない。

好きな映画をもう一本! 台湾映画の「本日公休」。台湾の台中で理髪店を営む60歳前後の女性を巡る話。チラシだけ見ると静かで落ち着いたしみじみした映画に見えるが、いろんなものが詰まっている。親子の関係、理髪屋の常連との交流、老いの問題、時代の移り変わり、新旧価値観のぶつかりなど。

「本日公休」監督:フー・ティエンユー 出演:ルー・シャオフェン フー・モンボー チェン・ボーリン他

「本日公休」監督:フー・ティエンユー 出演:ルー・シャオフェン フー・モンボー チェン・ボーリン他

一番メインになるのは、主人公の女性が遠くに引っ越して店に来ることが難しくなった常連の所へ車に乗り出張理髪に行く話だ。この展開がとてもいい。田舎の稲田を捉える撮影も素晴らしい。途中、長髪の若者の髪を切ってあげるのも悪くない。
映像がとても落ち着いて、全体に品があるのもいい。子供の頃の「床屋」を思い出すノスタルジーも嫌いではない。こういうアジアは和む。主役の女性も好演で、中々の佳作。
監督は女性。監督の母親は実際に理容師だったそうだ。母親の仕事ぶりを見て育ったのだろう。だからか、映画の中に、頭髪の変化で、その男性の時間の経過を表す繊細で効果的なシーンも生まれたのだろう。

(by 新村豊三)

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