話題の日本映画3本「ファーストキス 1st kiss」「ゆきてかえらぬ」「いきもののきろく」

話題の日本映画3本を紹介したい。まず、昨年の「ラストマイル」の塚原あゆ子が監督し、「花束みたいな恋をした」「怪物」などを書いている坂元裕二が脚本の「ファーストキス 1st kiss」

「ファーストキス 1ST KISS」監督:塚原あゆ子 出演:松たか子 松村北斗ほか

「ファーストキス 1ST KISS」監督:塚原あゆ子 出演:松たか子 松村北斗ほか

松たか子と松村北斗が共演するちょっと面白い作品だ。この映画はタイムスリップものである。冒頭、結婚しそれほど仲は良くないと思われる40代夫婦(子供はいない)の夫の駈(松村)が、出勤途中の駅で、線路に落ちた赤ちゃんを救おうとして事故に遭って亡くなってしまう。
一人残された妻カンナ(松)が、車に乗って高速を走っていると、トンネルの中でタイムスリップして、二人が出会う15年前の若かりし頃に戻ってしまう。松は、結婚しなければ駈が死なないと考えて、なんとか二人を引き離そうと懸命に努力する。

何だかイマイチだなあと思っていると、途中からグッと良くなる。二人並ぶ画面で、カメラは二人を捉え、松は未来から来たことを伝え、自分の心情や考えを伝えるところだ。段々、夫と妻のあり方、ひいては自分のパートナーとの関係を考えたくなるような、素直に心にしみる会話が展開され悪くないのだ。

松は、その現在の40代と、20代の頃を演じるが、全く違和感がない。つまり、若い頃を演じても可愛いのだ。特別好きな俳優ではなかったが、とても魅力的で好感が持てた。松村も、昨年主演男優賞を取った「夜明けのすべて」の演技がフロックでないことが証明される自然で素直な演技だった。

監督:根岸吉太郎 出演:広瀬すず 木戸大聖 岡田将生ほか

監督:根岸吉太郎 出演:広瀬すず 木戸大聖 岡田将生ほか

次の「ゆきてかえらぬ」は、ベテランの根岸吉太郎監督が、これまたキャリアの長い田中陽造のシナリオを映画化している。実在の詩人中原中也、恋人の女優長谷川泰子、友人の評論家小林秀雄の三角関係の物語だ。
残念ながら、多少の美点もあるが、失敗作ではないか。中原中也役の俳優が魅力に乏しい。映画の中で、中原に、どんな詩のきらめき、どんな天才があったのか少しも分からない。中原役は外見も凡庸(ローラースケートが上手いだけだった。ただ、ラストの再登場には驚く)。

最大の不満は、早い話、筋が面白くない。この三人、ユニークな三角関係だったかもしれないが、平凡に見える。泰子(広瀬すず)が美男子の小林(岡田将生)に惹き付けられるのは見ていて視覚的にも分かるが、最後になって、泰子が、やっぱり中也が好きだったというのが良く分からぬ。前半、そんな風に描かれてなかった。

美点は、映像が、画面がとても美しいことだ。照明などほれぼれする。昭和初期の時代を再現して、美術など贅沢である。だからこそ、脚本が良くないのが惜しい。私、根岸監督のファンで、「遠雷」(1981)が大好きだ。脚本を書いた荒井晴彦と組んでもう一度、いい作品を撮ってほしい。

この映画で広瀬すずを宮沢りえと見誤った映画ファンがいた(笑)。確かにやや似ている。実は先日ネットフリックスで、是枝裕和版「阿修羅のごとく」を見た(後半はなかなか面白い)。説明は不要だと思うが、向田邦子の小説が原作であり、NHKでドラマ化され、2003年には森田芳光が映画化。是枝版では長女を宮沢、4女を広瀬が演じた。この広瀬は素晴らしかった。
しかし、この「ゆきてかえらず」の広瀬は、無理して、宮沢的な、蓮っ葉、退廃、でも純情一途みたいなものを演じようとして、うまく演じ切れていない感じを持った。

「いきもののきろく」監督:井上淳一 出演:永瀬正敏 ミズモトカナコ他

監督:井上淳一 出演:永瀬正敏 ミズモトカナコ他

好きな映画をもう一本! 永瀬正敏が主演、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の井上淳一監督が演出をした、わずか47分の映画が「いきもののきろく」だ。
2014年に作られ、名古屋の単館で公開されたもののお蔵だった作品である。原案は永瀬。名古屋市の住宅街を流れる河で、ガラクタを拾い続ける男がいる。家族写真であったり、子供の遊具であったりする。男は廃屋に住んでいる。周りには誰も住んでいなく、ゴーストタウン化している。そこに若い女が住み着く。

台詞がない。正確に言うとサイレント映画のように字幕が出る。モノクロ映画である。
一切の説明がない。しかし、放射能とか疫病で人がいなくなった街ではないか、生きた生活の欠片(かけら)を男は集めているのではないか、と思う。黒澤明が1955年に撮った、核兵器の恐怖で主人公(三船敏郎)が狂っていく映画「生きものの記録」が思い出される。
黒白のコントラストのハッキリした映像である。ラストの雪がいい。そこに被さる、PANTAという歌手の唄がいい。

(by 新村豊三)

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