九州ローカルの映画「ら・かんぱねら」と「骨なし灯籠」

佐賀、熊本の地方で企画され、地元の援助を受けて製作、公開されて好評を博し、東京でも公開されているローカル映画の2本がまずまず面白い。

監督:鈴木一美 出演:伊原剛志 南果歩 大空眞弓ほか

監督:鈴木一美 出演:伊原剛志 南果歩 大空眞弓ほか

まず、佐賀発「ら・かんぱねら」。「ラ・カンパネラ」とカタカナで書くと、超絶技法を必要とするリストのピアノの名曲である。この映画は、有明海の海苔養殖漁師が一念発起してピアノの練習を始め、猛練習を重ねてついに「ラ・カンパネラ」を弾きこなす実話に基づいている。因みに、カンパネラは、イタリア語で「鐘」の意味だ。

私は数年前、新聞でその漁師の事を読み、また、ラジオで、映画化されると聞いたことがあった。個人的な事を言うと、有明海の熊本育ちであり、親戚がこの海で海苔の養殖を行っていたため、幼いころから美味しい海苔を食べていたので益々興味が湧いた。

人口わずか80万人の佐賀県の県民から募金を集めて製作が開始された。海苔漁師徳田に伊原剛士が扮し、奥さんを南果歩が演じ、二人とも、九州弁を上手く使いこなしている。
内容は、徳田がピアノの練習に励む姿を中心に、夫婦愛・家族愛が描かれる。介護を受ける老父の話、県外に出ていたが郷里に戻って来て海苔の養殖を継ぐ長男の話などがある。ピアノを徳田に譲る元ピアノの先生の話も盛り込まれる。海苔の養殖の過程も丁寧に描かれていて興味深い。

ピアノの練習だが、これはyoutubeにピアノのキーを真上から捉えて弾く動画があり、楽譜を読めなくても、見よう見まねで上手くなっていく。最後に徳田が「ラ・カンパネラ」を弾きこなすようになるが、実際の演奏よりゆっくり目とは言え実際に伊原が、ぶっとい指で演奏するから立派なものである。
「夢を求めて生きよう」という事を描こうとするベタな話である。しかし、ベタな映画だからこそいい映画もある。この映画、キライではない。

さて、たまたま、プロデュ―サーのお手伝いをやった方が知り合いなので、聞いた裏話を書いておこう。新聞にも出たというから、暴露ではなかろう。
最初のキャスティングでは、ピアノを譲る品のいい老婆役は浅丘ルリ子だったそうであるが、お金の面で折り合わず、3人目の候補の大空真弓になっている。でも、この控えめだがチャーミングな人物は、彼女が演じて正解だったと思う。浅丘さんはちょっと派手かな。

監督:木庭撫子 出演:水津聡 まひろ玲希ほか

監督:木庭撫子 出演:水津聡 まひろ玲希ほか

好きな映画をもう一本! 2本目は、熊本の地方都市山鹿を舞台にした「骨なし灯籠」。山鹿市は夏の風物詩山鹿灯篭祭りで有名だが、若い女性が頭に被る灯篭は全て紙で作られており、金具や「骨」がない。それゆえに、この地の灯篭は「骨なし灯籠」と呼ばれている。

この映画は、妻を病気で亡くした男の再起・再生の物語である。男はある日、妻の遺骨を抱いたまま山鹿の街にやってくる。心配した山鹿職人の家に居候になりながら、灯篭作りを学んでいく。
「山鹿愛」と言うか、郷土愛に溢れた映画である。全編静謐な映像で、山や川といった自然が美しく、街並みも綺麗に撮れている。人々も温和で善意に満ちている。伝統工芸も紹介される。

さて、物語だが、途中、亡くなった妻とそっくりの双子の妹が登場する。スペイン帰りだという。あれ、安っぽい展開になるかと思いきや、この静かな映画が、言って見れば大林宣彦映画のようなタッチになる。ここはあっと驚く展開だった。詳しくは書かぬが、ファンタジー映画の要素が現われる。それが、自然に人々の営みに溶け込んでいて違和感がないのがいい。時、あたかも、お盆の時期である。

脚本監督は木庭撫子(なでしこ)さん。若い頃、倉本聰の富良野塾にいてシナリオや演技を勉強されている。結婚で、夫の実家がある熊本に帰ってこられた方。尚、ご主人は、前の奥さんを病気で亡くされている。
この映画も、地元の出資を受けて製作し地元公開したところ、ロングランが続き、神戸や名古屋でも上映され、東京での公開に繋がったのである。

そうそう、この映画、知っている俳優さんは一人もいなかった。地元の方で固めたのだろうか。でも、皆さん自然な演技で、妻役のまひろ玲希さんは魅力的である。
地元の銘酒「千代の園」の工場が何回か映る。実はここの社長は、高1の時のクラスの同級生である。温厚な性格で、それなりに仲が良かった。もう50年以上会っていない。彼を思い出しながら、この酒を味わってみたい。銀座のアンテナショップに求めに行こうと思う。

(by 新村豊三)

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