冤罪映画3本「でっちあげ」(日) 「父の祈りを」(英) 「罪深き少年たち」(韓)

6月に大河原化工機事件の無罪が確定した。杜撰な捜査と証拠によるでっち上げだった。獄中で胃がんが悪化し亡くなられた被告もいた。メンツにこだわった検察は酷かった。今日は今日で(7月18日)、再審裁判で、名古屋高裁が犯人とされた男性の無罪を言い渡した。39年前、福井市の女子中学生が殺され、有罪となり服役したが、無実を訴え続けていたものだ。

冤罪がテーマの映画は古今東西、沢山ある。3つの国からそれぞれ一本を紹介する。

監督:三池崇史 出演:綾野剛 柴咲コウ他

監督:三池崇史 出演:綾野剛 柴咲コウ他

まず、現在公開中の「でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男」
2003年、小学校の先生が生徒に体罰を加えた、イジメた、自殺の方法まで教えたということで、親が教員と市に5800万円請求の訴えを起こした実話に基づく話。強烈な作品で、映画として大変面白いが、元教員の私は見ていてツラい。

冒頭、関係者が裁判所に入るシーンから始まり、原告側の陳述に沿ったドラマが展開する。原告の母親(柴咲コウ)がこう述べる。夜、担任の薮下(綾野剛)が家庭訪問に現われ、子供に外国人の血が流れていて穢れていると発言し、次の日から、子供への暴力が始まった、と。
次に、被告の綾野が法廷に立つ。綾野が、「これまでの陳述は、全て」と言うと、黒い画面に変わり、縦に「でっちあげ」とタイトルが出る演出から引き込まれる。

校長、教育委員会がどう対応したか。マスコミがどう煽ったか。生徒の親がどう反応したか。薮下が、どう弁護士を見つけ闘ったか等、きちんと描かれ、まことに面白い。
娯楽性と社会性がうまく合体している。綾野剛が好演。彼が、哀しそうな、切なそうな顔をするとたまんない。一方、ワイルドで攻撃的な感じも見えるのがいい。柴咲コウが怖い。無表情でホラーっぽい。

元教員として思うのは、教頭校長の姿勢が問題だ。保護者が訴えてきたら、確認せずに、まず謝罪する態度ではダメだ。なんでも鵜呑みにしちゃいけない。ヘンな親、性格が異常な親もいる、ということだ。弱い立場にある教員を守らねばならないのだ。

監督:ジム・シェリダン 出演:ダニエル・デイ=ルイス エマ・トンプソン他

監督:ジム・シェリダン 出演:ダニエル・デイ=ルイス エマ・トンプソン他

英国映画「父の祈りを」(1993年)は、1979年に起きた実話を基にしている。英国とアイルランドの紛争を背景にしている。英国の地方都市のパブがIRA(アイルランド共和軍)によって爆破され死傷者が出る。たまたま、アイルランドからロンドンに来ていた若者ジェリー(ダニエル・デイ=ルイス)が無罪の罪で警察に拘置され、家族も爆破を手伝ったという判決が出てジェリーは父親と同じ刑務所で30年の服役を受けることになる。

IRAの活動が活発になった時期で、警察は犯人を逮捕しないと批判を受けると考える。証拠はないが、肉体的精神的暴力を主人公たちに振るい、ウソの自白をさせる。
ヒドイ話である。女性弁護士(エマ・トンプソン)の活躍により、15年後、再審が開かれ、警察のウソが明らかになり劇的な無罪を勝ち取る。
この映画が面白いのは刑務所の中の生活が描かれること。ジェリーは、父親と一緒の部屋で生活する(これは事実に反するらしいが)。やがて、父親は体調を崩して行く…真犯人が入って来て、筋金入りの囚人として頭角を表わしていくのも面白い。囚人の気晴らしに映画上映会が開かれている時、囚人たちが厳しい看守に痛撃をくらわせるシーンもある。
法廷内の検事と弁護士の丁々発止のやり取りも面白い。再審請求の法廷では、弁護士が、痛快かつ正義の弁論を繰り広げカタルシスを生む。

監督:チョン・ジヨン 出演:ソル・ギョング ユ・ジュンサン他

監督:チョン・ジヨン 出演:ソル・ギョング ユ・ジュンサン他

好きな映画をもう一本! 1999年に実際に起きた殺人事件を基にした韓国映画「罪深き少年たち」(2023年)も力作だ(原題は「少年たち」)。
全羅北道サムネと言う町の小さなスーパーマーケットで強盗殺人事件が発生し、町内に住む少年たち3人が逮捕されて有罪となる。翌年、警察署に新しい班長として赴任して来たベテラン刑事ファン(ソル・ギョング)が再捜査を始めるが、責任刑事の妨害にあい左遷される。
事件から17年後、年を取ったファン刑事の前に目撃者が現われて、老刑事は再捜査を開始する。

この映画、後半ドンドン面白くなり、終盤の裁判に至っては、もうどうなるか心底ハラハラした位。弁護士と、警察・検察のこれまた丁々発止の応酬が続くのだ。
無罪を勝ち取るが、展開がベタであってもホロッと来る。初老の現在と若い頃の狂犬のようなデカを演じたソル・ギョングがなかなかいい。奥さん役のヨム・ヘランも好演(私は彼女を韓国の「江口のり子」と呼んでいる)。

(by 新村豊三)

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