戦争映画の秀作「木の上の軍隊」「雲ながれる果てに」「戦旗はためく下に」など

TV報道ではガザやウクライナの悲惨な現状を見て気が滅入るし、この炎暑の中、見る前は、また暗い気持ちになるかと思ったが、見に行って良かった映画が「木の上の軍隊」だ。実話を基にした、井上ひさし原案の、同名のお芝居の映画化だ。

「木の上の軍隊」監督:平一紘 出演:堤真一 山田裕貴ほか

「木の上の軍隊」監督:平一紘 出演:堤真一 山田裕貴ほか

沖縄戦で、上官の山本(堤真一)と地元の新兵安慶名(山田裕貴)は、アメリカ軍に攻撃され孤立し、敗戦も知らず2年間も木の上の生活を続ける。二人の兵士は必死だが、哀しくもあり、時に滑稽にも思える。

地元を知っている新兵の方がサバイバルに優れているのがリアル。食料を漁りに行く展開も面白い。ゴミ捨て場で山本が、米兵が捨てたヌード写真が載った雑誌を見つけるものの、安慶名が見つけたタバコの缶と交換したりして(ああ、人間的)、ディテールに富む。二人は空腹と闘う。敵の物は食わぬと意地を張る山本に、日本の「大和鯨」の缶に、こっそりアメリカの食べ物を入れて食わせるのは泣かせる。
最期をどう決着付けるかがポイントだが、山本がマムシに咬まれた安慶名を背負って投降へと向かうのは上手く考えられたシナリオだ。

さて、戦後80年。優れた戦争映画を4本挙げたい。
まず「雲ながれる果てに」(1953)。昭和20年、学徒動員で招集され、鹿児島の基地で特攻隊として出撃を待つ若者たちの日々を描く。

監督:家城巳代治 出演:鶴田浩二 木村功 沼田曜一ほか

監督:家城巳代治 出演:鶴田浩二 木村功 沼田曜一ほか

若者たちは小学校の教室で共同生活をしている。特攻で死ぬことを誇りに思う者もいれば、懐疑的な者もいる。しかし、沈着で剛毅と思われた大瀧中尉(鶴田浩二)が、面会に来た家族が帰った後で、学校裏の林に走り込み、人が見ていないところで慟哭する。そして、次の日、出撃してゆく。これがリアルな、特攻隊員の美化されない真の姿だろうと感銘を受けた。ほんの10年足らず前、自らも戦争に行ったスタッフが戦争の生々しい記憶と共に、戦争の真実はこうだと伝えている。

監督:深作欣二 出演:丹波哲郎 左幸子 藤田弓子ほか

監督:深作欣二 出演:丹波哲郎 左幸子 藤田弓子ほか

深作欣二の「軍旗はためく下に」(1973年)は、つい最近、池袋の名画座で再見したが凄まじい映画である。直木賞受賞の小説を映画化。戦後27年経ち、千葉の漁村に住む戦争未亡人富樫サキエ(左幸子)が、敵前逃亡で処刑と記録されている夫(丹波哲郎)の死の真相を知ろうとして、夫が所属していた部隊の元兵士たちを訪ね歩く。証言は「藪の中」で混乱するが、やがて、夫はニューギニアの戦場の極限状況で、錯乱した上官を殺してしまい終戦後に処刑されたことを知る。また、仲間が人肉を食べて生き延びたことも分かる。師団参謀が捕虜を殺した事実も出て来る。

約40年前初めて見た時は、夫が処刑されるシーンで体が震えたことを記憶している。サキエは天皇への認識が変わる。「(戦没者追悼式で)天皇に花を手向けてもらいたくない」と言う言葉が痛烈。ラスト、画面に、戦没者総計310万人と大きな文字が出るのである。
登場人物の中では、戦後、人と交わることをせず、朝鮮人部落のゴミの散乱する場所で養豚業を営む男(三谷昇)の演技と存在感が圧倒的だ。繁栄を続ける日本で、戦争の記憶が薄くなっていった70年代初頭に戦後の問題を突きつけた。

2003年、これも井上ひさしの戯曲を基にした映画「父と暮らせば」にも感銘を受けた。戦後、広島で一人暮らしをする美津江(宮沢りえ)は、男一人で自分を育てた父親竹造(原田芳雄)を原爆で亡くしている。職場の図書館に、若き研究者木下 (浅野忠信)が何度か現われ好意を持たれるが、生き残った自分は幸せになってはいけないと木下の気持を素直に受け入れない。家には、幽霊の竹造がいる。父親は、「生きてるおまんは幸せにならにゃいけんのや」と娘に自分の気持ちを伝え続ける…広島弁の方言の効果が大きい、切なくもヒューマンな作品だ。

沖縄のことを描く映画ではドキュメントがいい。2015年の「うりずんの雨」という記録映画には啓蒙された。「うりずん」とは方言で、3月4月を指す。すなわち、昭和20年3月に米軍による沖縄の攻撃が開始された時期である。戦闘は約3か月続いたが、沖縄の人口の4分の1の10万人が亡くなった(!)ことを、この映画を見るまで知らなかった。
軍隊が住民を助けなかったことも語られる。現在、沖縄は基地が沢山あるが、その基地の色々な問題も提示される。内地の人は、交付金があるから経済が潤うという考えをしてしまうが、基地があるからこそ経済が発展できないという事実も指摘される。沖縄のことが学べる貴重な映画だ。

(by 新村豊三)

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