〈赤ワシ探偵シリーズ2〉ニフェ・アテス第十二話「博物館ルート」

列車は東区に到着した。雑多で生活の匂いがする西区と違って、こちらは官庁や大型工場などが多く、全体的に無機質な雰囲気である。そんな東区の、公共のエレベーターで行ける最下階の101階には「発掘博物館」がある。立体都市の下層の発掘現場をそのまま展示物にした博物館で、昔から人気の観光施設だ。
発掘博物館にあるのはごく浅い階層の遺構で、年代はそれほど古くない。我々が目指すのはもっと下、太古の階層だ。

101階まで降りた私とジョーは、博物館の近くの路地へ入って、まずヘルメットをかぶった。これで、もし誰かが通りかかっても、設備点検か工事をしているように見せかけることができる。ジョーが見守る中、私は路面にある点検孔の蓋を、特殊な器具を使って慎重に外した。
我々のような業界では、下層へ行く裏ルートはいくつか知られているが、その中の一つ「博物館ルート」である。
せまい入り口から点検孔の中へ素早く降りると、静かに蓋をはめ戻した。すぐに、ジョーがヘッドランプを灯す。
大小いくつもの配管の間をすり抜けるようにして数十メートル移動し、適当なスペースを見つけると、ジョーと私はそこに腰を据えて作戦会議を始めた。

「とりあえず、アレキセイが四角石を見つけた70階まで降りよう。発掘の連中に見つからずに行けるルートはあるだろうか」

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

博物館より下の階には、一般人の立ち入りが認められていない。行けるのは現在作業中の発掘現場の関係者だけである。許可を得ていない我々がお上に見つかったら、いろいろと面倒だ。発掘は同時に数カ所で行われているので、その間隙をぬって行かなければならない。
こんなことなら、考古省のサラクに話を通しておけばよかった、と後悔した。そうすれば、少なくとも70階までは大手を振って行けただろう。

私が地図を出して広げようとすると、ジョーがやんわりと制した。
「こちらの方が新しいと思います」
さすが情報屋。我々は顔を寄せ合って、立体都市下層の地図を覗き込んだ。表には出回っていない考古省の測量データをもとに、裏稼業の連中――盗掘人、夜逃げ屋、脱法科学者など――にとって有用な情報が細かく書き込まれている。

「私はこの立体地図という代物が苦手でね」
私は正直に言った。地図は各階ごとに俯瞰図で描かれていて、上下階を行き来する縦ルートが示されているのだが、頭の中で立体図を構成するのがどうも不得意なのである。立体都市の住人にあるまじきことかもしれないが。
ジョーは私のぼやきに構わず、地図を示しながら淡々と言った。

「この先にあるエレベーターシャフトで、86階までは降りられます。そこからまた横穴があって、その先でいくつかに枝分かれしているようです……下層に行ったことはおありで?」
「別のルートだが、探検家気取りのドラ息子の捜索で90階までは行ったことがある。二度と来るまいと思っていたが。おまえさんは?」
「私は行動よりも理論派でしてね。じつは東区へ来たのも初めてです」
「それはおめでとう」

それから少しの間、地図を見て検討したが、まずは分岐の手前まで行ってみようということになり、我々は出発した。
20分ほど点検孔を歩くと、どんどん先細りになって、通路を分厚い鉄板がふさぐ形で行き止まりになった。鉄板を動かしてみると、見た目よりも軽かった。扉のように手前に引くと、その向こうに四角い縦穴が現れた。首を突き出して下をのぞいたが、真っ暗で何も見えない。湿り気を含んだ金気臭い風が、かすかに吹き上げて来る。
この辺りまでは半ば「公道」のようになっているらしく、縦穴の壁に取り付けられたハシゴは、よく使われているような光沢がある。

15階分を垂直ハシゴで下るのは骨が折れたが、なんとか底まで到達した。
ヘッドランプで照らしてみると、瓦礫の山である。壁ぎわの一箇所だけ、瓦礫が取り除かれてややスッキリしているところがあって、そこにかろうじて一人通れるぐらいの穴が空いていた。

私が先に腹ばいになってくぐり、あとからジョーが来た。小柄でしなやかな彼は、やすやすと通り抜けた。
中は、道ではなく広い空間になっているようだった。どちらに進むべきか、もう一度地図をみようかと考えたとき――

上方から、騒がしい羽ばたきが集団で降って来た。

(第十三話へ続く)

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