「星へ帰る」
双眼鏡を覗くと、分厚い水晶の中の鯨がよく見えた。
観測所のガイドが説明する。
——水晶は少しずつ成長していますが、全体的に沈下しています。
鯨は前進しており、空は膨張しています。
水晶の先端が空に触れると液状化し、鯨が跳躍しますが、
空へ飛び込むためには充分近づいていなくてはなりません。
水晶の成長と沈下、鯨の前進、空の膨張。
我々はこれらを観測し、鯨が故郷の星へ帰れる日を計算しています。
レンズの向こうで、鯨が少し、動いたように見えた。
(版画・服部奈々子/おはなし・芳納珪)
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服部奈々子さんの個展が開催されます!
新作に加えて、月刊「清流」(清流出版株式会社)に連載中の内館牧子さんのエッセイ「消えた歌の風景」および、同名書籍(同社)のイラスト原画も展示します。
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