版画とちいさなおはなし(32)

翼馬(つばさうま)

かすみがかかった山に翼馬が立つと、一年が始まる。

翼馬は朝日とともに姿を現し、日暮れまでじっとそこにいる。

私たちは翼馬に見守られながら畑を耕し、種をまき、草をとる。

翼馬は、長雨が続くと雨の神様のもとへ、日照りが続くと日の神様のもとへ飛んでいって交渉する。

作物がみのり、刈り入れが無事に終わると、村では祭りが行われる。

輪になって踊る私たちの上を、翼馬は光の粉をまきちらしながら旋回し、山のかなたへ去っていく。

(版画・服部奈々子/おはなし・芳納珪)

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