踊るサボテンとカミナリ畑 by 芳納珪

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

赤ワシが営む探偵事務所「レッドイーグル社」のオフィスには、さまざまな種類のサボテンの鉢が、ところ狭しと置かれています。そして赤ワシは、そのサボテンたちをまるで自分の子どものように愛しています。
この「サボテンだらけのオフィス」にはモデルがあります。以前住んでいた街でお世話になっていた不動産屋さんなのですが、そこのご主人は毎朝サボテンの鉢をひとつひとつ丁寧にガラス戸の前に並べ、夕方になるとまたひとつひとつ中に入れていました。アパートの契約更新のときに事務所の中に入ると、そこにもまた、いくつものサボテンの鉢がありました。あのご主人は、本当にサボテンを愛していたのだと思います。

サボテンと聞いて誰もがまず思い浮かべるのは、まっすぐな幹から二本の「腕」を上に向けて伸ばす、人間のような姿でしょう。上げている腕の高さに違いがあるために、今にも動き出しそうに見えます。バンザイともガッツポーズとも違い、踊っているような躍動感があるのです。原産地のメキシコのイメージとも相まって、そのシルエットは陽気に踊る人のような、なんともユーモラスな形です。このサボテンは「サワロ・サボテン(弁慶柱)」という種類だそうです。

若き日のジョニー・デップが主演した「アリゾナ・ドリーム」(1993、エミール・クストリッツァ監督)という映画があります。クストリッツァの映画は、現実と幻想の境界がわからなくなるようなストーリーと音楽が魅力的ですが(クストリッツァ自身がミュージシャンでもあります)、この映画では、荒野に生えた一本の立派なサワロ・サボテンの脇を、銀色の魚が月に向かって飛翔するポスターがとても印象的でした。
アリゾナ州はアメリカ合衆国に属していますが、南側はメキシコとの国境に接しています。その一帯がサワロ・サボテンの生息域のようです。どこまでも広がる荒野を埋め尽くすサワロ・サボテン。いかにも月の光を浴びていっせいに踊り出しそうではありませんか。

私の空想の中で、月下のサボテン荒野は東隣のニューメキシコ州にある「ライトニング・フィールド」へとつながります。これは現代美術家のウォルター・デ・マリアの作品で、400本もの金属棒を整然と並べたランド・アートです。もともと雷がよく落ちる土地で、この金属棒が避雷針となり、雷を引き寄せます。
私はすっかり、同じ砂漠の中で、サボテン領域の隣にこの「カミナリ畑」があるような気になっていました(実際は別の場所で、500キロメートルくらい離れているようです)。
ライトニング・フィールドの雷の乱舞とサワロ・サボテンの群舞はいつしか混ざり合い、宇宙と交信するサボテンのイメージになり、「サボテン・ラジオ」という短編小説になりました。

ところで、サワロ・サボテンは小さな頃から「踊る人」の形になっているわけではないそうです。最初は一本の「幹」の部分だけがひたすらまっすぐに伸び、あの特徴的な「腕」が枝分かれするのは、なんと70〜80年たってから。
人間の一生分の年月をかけて、やっと踊れるようになるのですね。

(by 芳納珪)

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『水神様の舟』

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