3280号室、ぶんのすけ氏という人

ぽつんと人がいる。
ぐーんと続く芝生広場のまんなかに。
動いている。
20階のわたしの部屋からは豆粒のようにしか見えないが、あれは太極拳のようなものなのだ。

近くで見たことがあるからわかる。
あれは、ぶんのすけ氏で、午後のトレーニング中なのだ。

武道家というわけではないと思う。
酒に関わる仕事をしていると聞いたような気がする。
作る仕事か、売る仕事か、はたまた飲む仕事かそれはわからない。
いっしょに飲んだことは数度ある。
強い。底知れず強い。

ぶんのすけ氏といえば「超訳文庫」だ。
「アングリマーラ」が第6話を迎えた。
全編の約半分まで来たところらしい。
仏弟子アングリマーラの運命をたどる物語ではあるが、次第にブッダの存在感が増してきた。
常識をはるかに超えた物語を信じさせてしまうのは、語り手の人格的迫力以外にありえない。

ここに出てくるブッダの、なんと豪快でカッコイイことだろう。
説教臭さなど微塵もない。
堅苦しいお行儀もクソ喰らえだ。
読者は仏教に対して持っていた古い固定観念をがんがん揺さぶられるだろう。

しかし、考えてみればそれは当り前のことなのかもしれない。
立派なことしか言わない四角四面のおっさんに誰がついていくだろう?
男も女も老いも若いも、そろって熱狂的に支持するなんてことあるわけがない。

ブッダもキリストもマホメットも、とにかく圧倒的にカッコよかったのではないか?
正しいとか、役に立つとかではないと思う。
少なくともそういうのはあとだ。
まずカッコイイ。ロックスターみたいにね。
型破りで、無茶苦茶で、ガツンと来る。

現代にもそういうの、いるんだろうか? どっかに?

超訳文庫へ

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