アマゾンのセルフ出版(自主出版)は出版社を殺すのか?

セルフ出版で売れるのか?

前回の続き、アマゾンが出版流通から出版社の取り分を排除するもう一つの方策「セルフ出版」について書く。

アマゾンはKDP(Kindle Direct Publishing)というセルフ出版サービスを提供している。だれでも自分の電子書籍を制作しキンドルストアで販売することができる。費用はかからない。

ここには著者とアマゾンしか存在しない。したがって売上は著者とアマゾンで分配される。著者分(印税)は35%か70%だ。70%はアマゾンでの独占販売を承諾した場合のみ適用される。
もしこれで本が充分売れるなら、出版社はいらない。

さて出版社が何をやっているかといえば編集と宣伝である。
わたしも文筆を業としているものだが、編集と宣伝は大変な仕事で、これ抜きで本を作り売れるとはとても思えない。だから出版社を抜くということは編集と宣伝をやらないということではなく、だれかが代わりにやるということだろう。

アマゾンは編集はやらない。宣伝はやらないとは言い切れない。売れていないセルフ出版書籍に関しては何もやらないだろうが、ある程度売れてきたら「ランキングに入る」「おすすめに入る」などアマゾンに元々ある販促機能が宣伝となる。その程度だ。

アマゾンと著者、二人のプレイヤーしかいないのだから、アマゾンがやらない部分は著者がやるしかない。
つまり出版社の助けを借りず、セルフ出版からヒットを出すには、執筆・編集・宣伝をすべて高いレベルでこなさなければならない。
さらにいえば宣伝には通常アイデアと予算が必要だから、資金もある程度必要となる。
やれやれ。
セルフ出版からベストセラー作家を目指すのはあきらめたくなってきたぞ。

セルフ出版からのベストセラー作家

しかしだ。世の中にはいるのである。
1984年生まれのアマンダ・ホッキングは自作小説を複数の出版社に持ち込むもすべて断られ、2010年アマゾンのキンドルストアでセルフ出版した。驚くべきことに彼女の小説9作は次々ミリオンセラーとなり、1年後には大手出版社から200万ドルのオファーを受けメジャーデビューしたという。

2010年といえばアマゾンがキンドルストアとセルフ出版サービスを始めてまだ数年である。
他にも早い時期にジョン・ロック、ケリー・ウィルキンソンなど複数のセルフ出版出身のスターが生まれている。

未読のため内容はわからないし、彼らがセルフ出版物をどう宣伝したかもわからないが、おそらく著作以外にも才覚のある人たちなのではないかと想像する。
まだKDP作品が珍しかった初期にいち早く参加したのも注目されやすく良かったのかもしれない。アマゾンの側にもKDPセルフ出版を盛り上げるために早くスターが生まれてほしい思惑があったかもしれない。

ただアマンダ・ホッキングが大手出版社と契約したように、KDPから生まれたスター作家が”メジャーデビュー”していくということは、やはり編集者がつき出版社が宣伝してくれることには価値がある証拠でもある。
KDPの印税率は35%か70%と通常の紙書籍の印税率よりはるかに高率であるのに、それでもすでに知名度を獲得した著者が出版社から出すことを選ぶわけだから。

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日本でも、セルフ出版から成功した人たちはいる。代表格は藤井太洋だろうか。
日本でKDPが始まった2012年、『Gene Mapper』をセルフ出版し、アマゾンのKindle本年間ランキングで「小説・文芸部門1位」を獲得、早川書房から声がかかり翌年同作で商業出版デビューした。以後、第35回日本SF大賞、第46回星雲賞を受賞するなど活躍している。

藤井太洋も現在はセルフ出版ではなく出版社との仕事をしている。
編集や宣伝をふくむセルフプロデュース力があっても、やはり多くの作家は執筆そのものに専念したいものだろう。

出版社はまだ当分役割がありそうだ。

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