楽しい非現実

今月のBFUギャラリーは成瀬修個展「物語のかけら」である。
ご覧いただけばわかるとおり、成瀬氏は現実に混ざりこむ非現実を描く画家だ。

「波のクロス」©成瀬修

現実に混ざりこむ非現実を描く画家は珍しくない。その中にあって成瀬氏の特徴は「明るさ」だろう。
この種の絵には暗いものの方が多い。薄闇の中からこそ条理を外れたものが生まれやすいのは当たり前だ。
慣れ親しんだ現実がほころび、見知らぬ何かが顔を出す。それが善か悪かは未知ゆえにわからないが、わからないということは容易に不安に、気味悪さに、恐怖に転じる。

成瀬修氏の絵にはその手の暗さがまるでない。「明るくて楽しい少し不思議な世界をつくっていければ」と本人も語っている。
現実に混ざりこむ非現実は成瀬氏にとって楽しいものなのだ。

これは明らかに、登場人物がすべて子どもであることと関係がある。
遊びなのだ。
いつもの道を通っているのに見慣れぬ場所に出てしまった。
用があり、先を急いでいる大人にとっては迷惑でしかない。
しかし急いで為すベき仕事などない子どもにとっては面白いのだ。
当たり前が破れたところには冒険の入り口がひらけている。

成瀬氏には何度かお会いしたことがある。はにかんだ笑顔が印象的だった。
このような絵を描く成瀬氏の心にいたずら好きな少年が住んでいることは改めて訊いてみるまでもないことだ。

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