住所も電話番号もない名刺

15年ほど前か。
住所も電話番号もない名刺を渡されてたいへん驚いた。
初めてだったからだ。
これは名刺なのだろうか、と3度見直した。
名刺のような形をしているが名刺ではないとわたしは判断した。

そのようなことはその後ずいぶん増えた。
渡してくる当人は名刺だと考えているらしいことも一応理解した。
しかし今でもなお、わたしはいい気持はしない。

個人情報のある名刺を渡すのは
「初めてだから何も知らないけれど、でもあなたのことを信用しますよ」
という挨拶だろう。
だって「初めてだから一切信用しない」では何も始まらないのだから。

それに対して住所も電話番号もない名刺を返すのは
「そうですか。わたしの方はあなたを一切信用しませんけどね」
という返事になる。

いい気持ちはしないよね。

住所も電話番号もない名刺を渡す人は、住所も電話番号もある名刺を返されたとき、本当に何も感じないのだろうか?
いささかの気まずさもないのだろうか?

わたしは住所も電話番号もない名刺は別れたらすぐ捨てる。
だって「あなたを一切信用しない」という人と何のつきあいが始められるんだ?

☆     ☆     ☆     ☆

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内> <公式 Twitter


スポンサーリンク

フォローする