「アマゾンが出版を殺すのか?出版とは本か書店か取次か出版社か」つづき

出版の落込みがアマゾンだけのせいだと思っている人はいないだろう。原因は一言でいえば世の中の変化だ。この数十年でテレビ、ゲーム、スマホなどが生まれた。わたしたちは昔も今も平等に一日24時間しか持っていない。それを奪い合う強力なライバルが次々現れたのだから本・雑誌を読む人が減るのは当然だ。

減るのは当然として、ではアマゾンはそれに拍車をかけたのか?
わたしは懐疑的である。わたしを含め多くの人がアマゾンを利用するようになったのは便利だからである。他の書店はアマゾンより不便なのである。だとしたら

「もしアマゾンがなかったら出版物はもっと売れなくなっていた」

と見るのが妥当だろう。便利なアマゾンがあってすらピーク時の半分しか売れなくなってしまったのだから。

出版界には著者、出版社、取次、書店、読者などがいる。この中にはアマゾンと利害が一致する者も反する者もいる。順番に見ていこう。

まず出版社。
根本的には出版社とアマゾンは利害が一致する。どちらも本が売れれば儲かり売れなければ儲からない。だからアマゾンには出版社をつぶすメリットはない。売れる本を作ってくれる出版社はお客様だ。
ただしどんな業界でもそうであるようにメーカーは高く卸したいし小売は安く仕入れたい。アマゾンのシェアが大きくなり市場支配力が強まるほど、卸価格(出版界では正味という)への要求は強くなる。たたけるだけはたたくだろう。出版社がつぶれたらアマゾンとしても元も子もないので限界はあるが、ただでさえ世の中の変化による出版不況で逆風なのだから経営体力のないところはきっともたない。
やはり出版社にとってもアマゾンが強大化しすぎるのはマイナスである。

次に書店。
書店はリアルでもネットでもアマゾンの競合相手だから、アマゾンが強くなることによる被害を直接受ける。
アマゾンだけのせいではないが、昔ながらの町の書店はすでにほぼ一掃された。
1996年以降急速に増えたチェーン系の大型店ももう打ち止めだろう。巨大化して品揃えで勝負する時代は完全に終わった。そこではアマゾンに勝てないことがはっきりした。

一方で増えてきたのが小規模な個性派書店で、いくつかの共通する傾向がある。

・品揃えを先鋭化する(セレクトショップ)
・インテリアにこだわる
・カフェを併設する
・雑貨等本以外の商品もあつかう
・イベントを多数開催する

これらは明らかにリアルな場であるからできることの追求で、アマゾンには提供できない価値を提供しようという動きである。
リアル書店の活路はこのへんにあると思われるが、これは以前とは書店経営に求められる知識や能力がまったく変わってしまったことを意味している。本しか知らないのでは話にならず、他の複数の才覚が求められる。決まったモデルがあるわけでなく、一からオリジナルな店を作り上げなければならない。やりがいはありそうだが成功できる人がどれだけいるだろう。

大型書店もアマゾン対策を考えないわけがない。カフェを併設し定期的にイベントを打つ大型書店も増えた。個性派書店に特徴的な戦略をほとんど取り入れているようなところもある。規模が大きいと仕入れなどで有利になる半面、自由度は個人店より低いだろうし、大型書店のよさと個性派書店のよさを併せ持つ成功例になるのか、わたしはちょっとわからない。

さて取次。
出版物の問屋である取次はアマゾンと利益一致する部分と反する部分両方がある。減ったとはいえ3000社以上ある出版社と個別に取引するより、ほとんどの出版社と取引のある大手取次と取引する方がはるかに簡単で、実際アマゾンは日本上陸以来そうしてきた。一方、もし取次を排除して出版社と直取引できたなら取次マージンの約8%が浮く。

アマゾンはいま急速に直取引を進めている。それができるだけの力をつけてきたのだ。多数の出版社と個別取引するとその手間は膨大なものだと思われるが、アマゾンはおそらくそのIT技術によって、8%のマージンを払って取次に頼むよりも低い負担でそれを可能にしたのだ。あるいは低い負担とまでいえないが、将来を見すえて取次外しにかかったのだ。
取次にとってはこれは露骨な宣戦布告であるし、出版社にとってはアマゾンにつくか取次につくかの選択を迫られることになる。
寡占状態の取次業界では大手2社、日版とトーハンでシェア70%を超すと言われているが、日販とトーハンはいま自分たちの人望のなさに驚いているかもしれない。

取次にとってもう一つの危機は電子書籍である。電子書籍は物流がないから従来のような取次を必要としない。出版が紙から電子に移行するとそれだけそっくり仕事が減る。稼ぎどころであるコミックですでに電子の売上が紙の売上を上回ったのは痛烈な打撃に違いない。
日本で最も強力に電子書籍を推進してるのはアマゾンで、ここでも取次と利害が真っ向対立している。

2015年に業界4位の栗田出版販売が倒産、2016年には業界5位の大洋社が自主廃業している。業界3位だった大阪屋は経営危機で自社ビル売却などあったのち現在は大阪屋栗田として楽天の子会社になった。
これはもう厳しいなんてものではない。大手2社にはどんな将来戦略があるのだろう?

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ばらばらに語ってきたが、大手出版社、取次、一部書店チェーンには資本関係がある。講談社や小学館は日版・トーハンの大株主だし、リブロは日販の子会社で、ブックファーストはトーハンの子会社だ。
印刷最大手の大日本印刷はなんと丸善・ジュンク堂・文教堂を傘下に収めている。日本を代表する書店チェーンである丸善やジュンク堂が隆々としていれば傘下に入る必要などないだろう。大型書店も厳しいのである。

大手出版社と資本関係のある大手取次がほぼすべての出版社と書店を結ぶ従来型の出版流通が終わろうとしているのは明らかだ。
時代に合わなくなったというシンプルな理由で、そこにアマゾンが拍車をかけたとは言えるだろう。

しかし従来型の出版流通が崩壊することと出版が崩壊することは違う。
次回は、出版の最も重要かつ本質的参加者である、著者と読者のことを考える。

――――つづく

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