ジョーが引っ張る馬車に揺られながら、僕とフレムは「霧ヶ岬」へと向かっていた。
海沿いを西へと進むうちに、濃い霧が出てきて、辺りを包み始めた。
何か物思いにふけっているように見えたフレムは、急に顔を上げて辺りを見回し始めた。
「・・・・やはり、誰かがワシらの事を見ておるな」
「誰がだい?また、ゾーラが『遠見の術』で僕らの事を見てるのかな?」
「いや、ゾーラの『遠見の術』はワシが封じた。それに、この気配は何か別のモノじゃ」
とフレムがまた、謎めいた事を言い始めた。
「まあ、いずれはこの気配の正体も分かるじゃろう。それよりも、エレン、ヴァイーラには気
を許してはならぬぞ。ゾーラも相手についておる」
「ゾーラって、凄腕の魔術師だろう?レーチェルも一緒に居るのかな?」
「おそらくな。・・・・しかし彼らは、そう簡単にレーチェルをワシらに返しはせぬだろう」
僕らが濃い霧の中を進んでいくと、その先に険しい崖がそそり立つ岬が見えてきた。
岬の上に、4人の人影が見えた。
二人の男とレーチェル、そして僕と同い年ぐらいの少女がそこに立っていた。
岬の向こうの海には、霧の中に隠れるようにして大きな船が浮かんでいた。
「フレム、よくおいでなすった。しかしそれ以上は、我らに近づいてはならぬ。そこで止まり
なさい」
長い木の杖を持った男が、僕らに向かって叫んだ。
きっと、あの男がゾーラなのだろう。
フレムは、ゾーラを睨みつけて重々しく口を開いた。
「ゾーラ、随分と久しぶりだな。お前がまさか、ヴァイーラにつくとは思いもしなかった
よ・・・」
ゾーラは持っていた杖を、僕らに向けて言った。
「フレム、俺にはあなたが何を考えているか、手に取るように分かる。あなたは俺らに近づ
き、俺を石に変えようと思っていましたな?違いますかな?」
フレムはゾーラにそう問われ、黙り込んだ。
ゾーラのすぐ隣にはレーチェルがいて、目を真っ赤にしていた。
きっと、恐怖と不安の為、泣き疲れてしまったのだろう。
レーチェルの隣にいる少女は誰なのだろうか?
周りで起こっている事にはまるで無関心であるかのようにして、その少女は立っていた。
もう一人の、いかにも貴族らしい服をまとった男がフレムに言った。
「そなたが、フレムですな?私の父を石に変えた。まあ、しかしそれは過去の事です。私は別
に復讐をしたいとは思ってはいません。・・・・私は、ただこの地で事業を成功させたいだけ
なのです。私は何も争いを起こしたい訳ではありません」
フレムはヴァイーラには何も答えず、ゾーラに向かって叫んだ。
「ゾーラ!お前は、この男の言う事を信じておるのか!本当にこいつが『魔術の国』の復興を手助けしてくれるとでも?」
その時、ズガーンとどこかから地響きのような音が聞こえ、ヴァイーラの船の近くの海面に水
柱が立った。
どこかからヴァイーラの船を目がけ、大砲が撃たれたようだった。
濃い霧の中から、いくつもの船影が現れ、ヴァイーラの船に向かっているのが見えた。
ゾーラはそれらの船を見て、フレムに向かって言った。
「フレム、騙したな!誰も連れてこぬ、という約束だろう?」
「いや、待て。ワシはギルドには何もするな、と命じておる!彼らは勝手に行動を起こしてお
るのじゃ!」
とフレムは、ゾーラ達に向かって言ったが、ヴァイーラ伯爵はそれらの船を見ても何も顔色を
変えなかった。
ヴァイーラは、ゆっくりと手を上げ、自分の船に向かって何か合図を送った。
ヴァイーラの船の砲門が開き、大砲の砲身がギルドの船に向けられた。
そしてヴァイーラが手を振り下ろすと、ズガーンと大きな音を立てて、大砲が火を噴いた。
青白く光り輝く光の玉が、ギルドの船に向かってまっすぐと、飛んでいった。
光の玉が、船に着弾すると、船は眩しいばかりの光を放ちはじめ、しばらくすると、船は完全
に消えてしまった。
「なんだあれは!魔術か?」
フレムは驚きながら言った。
ヴァイーラは、薄気味悪い笑みを浮かべながら言った。
「・・・・あれは魔術ではなく『科学』ですよ。ただし、その科学はあなた方の魔術を応用は
していますがね・・・・。あなた方には、しばらくは我らの科学技術の成果をご覧になってい
ただきましょう」
ヴァイーラが更に合図を送ると、ヴァイーラの船は次々と光の玉を放ちはじめ、ギルドの船は
為す術もなく、次々と消えていった。
僕は目の前で起こっている地獄絵図を、声を上げる事もなく、何もする事もできずに、ただ見
ているばかりだった。
――――続く
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