オオカミになった羊(前編)by クレーン謙

山奥深くに、羊たちが住む村がありましたとさ。
そこの村で羊たちは平和に暮らしていたのですが、しかし毎年のように村はオオカミに襲われていました。
羊たちは、どのようにオオカミと戦っていいのか分かりません。

村の羊たちはおとなしいうえ、柔らかく美味い、と噂が立つようになり、オオカミだけではなく様々な獰猛な動物が村を襲うようになりました。
腹を空かせた動物たちの襲撃で夜も眠れなくなった羊たちは、会合を開き対策が話し合われました。
村の周囲に見張り台を作って敵の襲撃を監視しよう、という事になり村の周囲にいくつもの見張り台が作られました。

そして、羊の若者たちが集められて見張り台へと送られました。
オオカミなどの襲撃を監視するためです。
しかし、いかにもおとなしそうな羊が見張り台に立っていると、敵が安心して襲撃をするでしょう。
そこで知恵を振り絞った見張り台の羊たちは、オオカミの毛皮を羽織り、恐ろしいオオカミのフリをする事にしました。

でもそれだけでは、いつかは羊だとバレてしまいます。
オオカミの毛皮を羽織った羊たちは、オオカミそっくりに遠吠えも真似ました。
彼らは必死になってオオカミの仕草や動き方を真似ました。
羊は普段は草しか食べないのですが、見張り台の羊たちは肉も食べるようになり、やがては息遣いまでもがオオカミのようになりました。

努力が実り、仲間から見てもまるで本物のオオカミのように見えました。
羊の村はオオカミが守っている、と噂が四方に広まりやがて誰も村を襲わなくなったそうです。
再び羊の村に平和が訪れ、そして何年も経ちました。
その頃には、見張り台の羊たちにオオカミの毛皮がピッタリと張り付いてしまい、本当のオオカミと見分けがつかなくなったそうです。
普段も遠吠えで会話を交わしているものですから、自分の事をすっかりとオオカミだと信じるようにもなりました。

驚くべき話は、ここからです。
オオカミに姿を変えた羊たちは、村の羊を見るとよだれを垂らしながら舌なめずりをするようになったのです !
「美味そうな羊だな……」と呟く者もいました。
ーー危険を感じた村の衆は、止む無く村の周囲に柵を築き、見張り台の(元)羊たちが入ってこないようにしました。
高い塀が作られたので、見張り台の(元)羊は村に戻れなくなりました。
一方村では、柵の外にまるで供物のように肉を供えるのが慣わしとなりました。
肉を喰らうようになっても、見張り台の羊たちは村を守る事だけは忘れてはいなかったのです。
見張り台の羊たちは身も心もオオカミとなり、供物の肉を喰らいながら村を守り続け更に幾年すぎ、多くの番いが結ばれ、いくつもの子も生まれたある晩の事……。

見張り台のオオカミたちは遠吠えで挨拶を交わしながら、いつもの集会を始めました。
オオカミというもの、満月になると集会を開くもの。
(そうです、見張り台の羊たちは完全にオオカミとなり果てたのです……)
オオカミ達が村を守っているおかげで、今宵も村では平和が保たれています。
集会にはミハリと名付けられたオオカミの子も居ました。夜空には山陰を照らし出す月が浮かんでいます。
ーー皆が集まると、オオカミの長が辺りを見渡しながら言いました。
「わが勇敢なる同胞たちよ、今月もご苦労であった。……昨日も狡猾な狐の群れが村を襲うところであったが、我ら見張り台のオオカミが撃退をしたので、何人たりとも村には侵入をせず、村は無傷であった」

長が演説を続けるなか、ミハリは父に向かって聞きました。

「おとう、なぜ僕らオオカミは羊の村を守らなければいけないのかな ? 羊たちは僕らの事を嫌っているのに……」

――――つづく

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