電気売りのエレン 第42話 by クレーン謙

今日は土曜日なので、学校は休み。
夢の中でマーヤと話をしてからというものの、目が覚めてからも、マーヤの顔と声が頭の中に残り続けていた。

・・・・・レイ君はスマホにしか見えないあの機械に向かって、エレンやフレムに話しかけていた。
知らない人が見れば、誰かと電話をしているようにしか見えないだろう。
しかし、そうではなく、彼らは人工知能の中に住んでいる『人工生命』だという!

私はその話を聞いてから、私たちの居るこの世界も実は誰かが創ったのではないか?という感覚にとらわれていた。
窓の外からスズメのチュンチュンという鳴き声が聞こえる中、ベッドの上でボーッとしている
と、

「マヤ、朝ごはんよ!」

と一階からママが呼ぶ声がした。
私は「ハーイ!」と返事をして、パジャマから着替えて、一階に降りていくとパパが椅子に
座って新聞を読んでいた。
土曜日も仕事の時もあるけど、今日はパパは会社は休みのようだった。
ママは台所で、朝ごはんの目玉焼きを焼いていた。
パパは家ではあまり仕事の話をしないけど、IT関係の会社で仕事をしている、という事は知っ
ている。

「マヤ、おはよう。きのう、レイ君の家に行ったんだって?」

パパが新聞から目を離し、そう私に聞いた。
レイ君との約束もあるので、なんと答えようか、と考えていると、コーヒーを飲みながらパパ
が話を続けた。

「お父さんが行方不明になってから、レイ君は友達と話さなくなったんだってな?学校の授業
にもついていけてない、ってママが言ってたよ。レイ君は頭がいいのに、もったいないよな。
お父さんは優秀な科学者だったのに・・・・」

「パパ、レイ君のお父さんの事を知っているの?」
私は椅子に座り、テーブルに用意されたオレンンジジュースを飲みながら、パパに聞いた。

「学校の授業参観日で会って、その後、何回か話をした事があるよ。・・・・それに、レイ君
のお父さんは、私たちIT関係者なら知って人は知っているんだ。コンピューターの概念を変え
るような研究をしていて、IT関係の人々も彼の研究には注目をしていた。
パパも、その研究内容を彼に聞いてみたんだ。でも、詳しくは教えてくれなかった。
・・・・ただ、とても不思議な事があってね」

オーブントースターがチン、という音を立て、パンが焼き上がる音がした。
ママは焼きあがったパンをテーブルに運んできてくれた。

「不思議な事って、どんな事?」
私はパンにバターを塗りながら聞いた。
パパはしばらく、考え込むようにして私を見つめた。

「レイ君のお父さんは、アメリカへ渡る前に私に、こっそり教えてくれたんだ。
・・・・・アメリカで完成させる研究の名前を『プロジェクト・マヤ』にしたってね」

パパがそのように言うのを聞いて、私はパンを下に落としそうになった。
私は、何も悟られないように気をつけながら、パパに聞いた。
「研究の名前に、私の名前をつけたの?」

「いやいや、そういう訳じゃないんだ。研究内容までは教えてくれなかったけど、どうしてそ
の名前にしたかは、教えてくれたよ。
中米に昔に、今は滅んでしまったマヤ文明、というのがあっただろ?
そのマヤ文明に『ポポル・ヴフ』という神話があって、その神話に感銘を受けて、そのような
名前にしたらしい」

私は、ドキドキしながらパパの話を聞いていた。
もはや、食べているパンの味も分からなくなっていた。
「・・・・それは、どんな神話なの?」

コーヒーカップをテーブルの上に置きながら、パパは答えた。
「レイ君のパパが話してくれた神話の内容は、覚えているよ。私も、彼の研究には関心があっ
たからね。
・・・・・『ポポル・ヴフ』には、どうやって神々が人間を創ったかが書かれているんだ。
最初、神々は動物や鳥を創った。
でも、動物や鳥は喋る事ができなかったので、次に、神々は泥から生き物を創った。
でも、泥から創った生き物たちは、知性もなく、水に濡れるとすぐに溶けてしまった。

次に、神々は木で人間を創った。
でも木で作られた人間は、神々を崇める事が出来なかった。
木で創られた人間は、なんの目的もなく、獣のように生きていた。
そこで最後に、神々は、トウモロコシの粉で人間を創った。

トウモロコシで創られた人間は、完璧で、それが今日の人類のルーツだと言われている・・・・」

――――続く

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