電気売りのエレン 第41話 by クレーン謙

いよいよ、ヴァイーラとの決戦の日が近づいてきた。
これが、ただの戦いではない事は僕もよく分かっていた。
ヴァイーラは、僕たちの世界を破壊するためにやってきた。
ヴァイーラを滅ぼさなければ、僕らは世界ごとヤツに消されてしまう。

「・・・フレム、ヴァイーラが世界を滅ぼす『コンピューター・ウイルス』だという事は分
かった。
つまり、ヴァイーラは人間じゃないんだろう?でも、ヴァイーラに使われている兵士や部下た
ちは・・・・」

僕は、フレムにそう話を振ってみた。
フレムは、ため息を一つつき、答えた。

「そうじゃよ、エレン。他は皆、人間じゃ。もちろん、ゾーラもな。残念な事だが、我らは
ヴァイーラに操られている人間達に戦いを挑む事になる・・・・・。こんな事はワシも避けた
かったのじゃが、やむを得ん・・・・」
そう言いながらフレムは、テーブルの上に置かれたセラミックナイフを手に取り、僕に渡し
た。

「エレン、その剣の柄には『いにしえの呪文』が刻まれておる。その呪文が、きっと我らを
救ってくれるであろう。その呪文をお前に教える。戦地では、その剣を使い、レーチェルを守
るとよい」

「え!レーチェルも連れていくのかい?」
「エレン、もうワシらには安全な場所は、どこにも無いのじゃよ。ヴァイーラを倒さねば、我
らはこの世界ごと消されてしまう。・・・我らはレーチェルも連れて、『落雷の塔』へと向か
う」

僕らがレーチェルの方を振り向くと、本棚にあった『いにしえの書』をマーヤと一緒に読んで
いるのが見えた。
マーヤはレーチェルに向かって、そこに書かれている事を、僕らの言葉に訳して説明をしてい
た。

「・・・マーヤに、あの本を見せて、大丈夫なのかな?マーヤもコンピューター・ウイルスな
んだろう?」

フレムは鋭い目つきで、マーヤを眺めながら答えた。
「マーヤは、まだウイルスとして成長しきっておらんようだ・・・。まだ、我らには害は及ば
さぬ筈じゃ。じゃが・・・・・」
そう言いながら、フレムはレーチェル達の方へ近づいていった。

レーチェルは物静かに、マーヤの話を頷きながら聞いていた。
まるで、二人は仲のいい姉妹のように見えた。
いったい、『いにしえの書』にはどんな事が書かれているのだろうか?

フレムはマーヤに近づき、言った。
「マーヤ・・・・ワシは、お前の父、ヴァイーラを倒しにいくぞ」

マーヤは『いにしえの書』を見ながら、しばらく沈黙していたが、
「・・・・どうぞ。好きなようにすれば?」
とそっけなく答えたので、僕は驚いた。

「好きにすればって、君のお父さんだぞ!いいのかい?」
と僕が叫ぶのを、マーヤは冷めた目つきで、見返しながら答えた。

「エレン、私は人間じゃないのよ。・・・・だから、私には親子の絆も情も、何もないのよ。
お父さんが死んでも、私は悲しまないわ。それに、私はウイルスなんかになるのはイヤよ!」

僕とフレムは顔を見合わせた。
マーヤがウイルスになる事を嫌がっている、という事に僕らは驚いた。
「まあ、いいじゃろう・・・。お前も、島まで連れていく。じゃが、少しでもワシらに害を及
ぼすようなら、お前を石に変える。よいかな?」

「・・・・・・・・・。」
マーヤは何も答えず、再び『いにしえの書』に目を落とし、それきり何も言わなくなった。
フレムはマーヤの側を離れ、集まってきた生き残りの漁師達と襲撃の作戦を話し始めた。
ふと洞窟の中を見渡すと、一角獣、いや、レイの姿が見えない事に僕は気がついた。
きっと外へ出たのだろうと思い、僕は洞窟の外へ出た。

ドウドウと音を立て水が流れ落ちる滝の向こう側に、茂みが見えた。
その茂みの中から、一角獣がヒョッコリと姿を現した。
一角獣はさっきよりも、姿が小さくなり、ツノも短くなっていた。

「レイ!なんだか、さっきよりも小さくなってないか?」と僕が言うと、レイがさっきよりも
聞き取りにくい声で答えた。

「・・・・エレン、電気が足りなくなってきたんだ。今、森に行き電気の実を食べたんだけ
ど、それでは足りなくてね・・・・」

一角獣が僕の側まで近づいてくると、大きさが馬の大きさに戻っているのが分かった。
「レイ、この前に何か言いかけていたよね?どうして僕らの世界の電気が足りなくなっている
のか、教えてほしいんだけど」

レイは僕の問いに、答えにくそうにしていたけど、観念したように話し始めた。

「君たちの住む世界、つまり人工知能は、外部と完全に遮断されているので、外から一切、電
気の補充ができないんだ。ボクのお父さんが外部からの敵の侵入を恐れて、そうしてしまっ
た。
・・・・具体的に言うと、人工知能に内蔵されている『バッテリー』が、唯一の電源なんだ。
どういう事かと言うと、バッテリーの電気がなくなってしまうと、君たちの世界は消滅してし
まうんだ」

僕はあっけにとられ、レイの話を聞いていた。
僕らの世界の危機は、ヴァイーラだけじゃなかったんだ!

「・・・・その『バッテリー』とかいうヤツは、あとどれぐらいの電気が残っているんだ
い?」

レイは、言葉を慎重に選ぶようにして答えた。
「お父さんは、特殊なバッテリーを作り、それを人工知能の中に組み込んだ。でも、いくら特
殊といっても、寿命には限度がある。・・・・恐らく、バッテリーはあと10年しか持たない。
今の僕には無理だけど、僕はもっと勉強をして、いい技術者になり、いつかは、人工知能の
バッテリーを交換したいと思っている。君達と君達の世界を救う為に!」

レイの声は次第にかすれてきて、更に聞き取りづらくなってきた。
頭のツノを弱々しく光らせながら、一角獣は話を続けた。
「・・・・・実はというと、バッテリーがあと10年も持つのは、電気をあまり消費しないよ
う、人工知能のプログラムを僕が書き換えたからなんだ。でもそのおかげで、魔術を使うと、
代わりに何かが消えてしまうようになってしまった。・・・・魔術、つまり『いにしえの言
葉』は君たちの世界の基礎的なプログラムなんだ。魔術を使うと、そのプログラムに直接アク
セスするので、大量の電気を消費してしまうんだ」

僕にはレイの言っている事が、半分も理解できなかったけど、魔術を使うと電気が減ってしま
う、という事は分かった。
フレムが魔術をあまり使おうとしないのは、そういう事だったんだ・・・・。
気がつくと、辺りは日が暮れ暗くなり始めていた。

僕らが、洞窟へ戻るため、滝の方へと向かうと、レーチェルが飛び出してきた。
「エレン兄ちゃん!どこへ行ってたの?フレムがエレンの事を探していたわよ!『呪文』をエ
レンに教える、って」

「やあ、レーチェルごめんよ。レイの事を・・・いや、ジョーを探しに行ってたんだ」

レーチェルは一角獣を見て、顔をキョトンとさせた。
「ジョー、なんだか小さくなってない?」

「ああ、大丈夫だよ。そのうちジョーは元どおりになるから・・・・。それよりも、レーチェ
ル、マーヤは僕らの敵なんだ。あまり仲良くならない方がいいよ。マーヤはああ見えて、人間
じゃないんだからね」
僕がそう言うと、レーチェルはほっぺたを膨らませた。

「マーヤは、敵じゃないわ!マーヤはわたしに、優しくしてくれたわ!それにね、マーヤは人
間よ!」
そう言い、レーチェルは先に洞窟へと駆けだしていった。

やれやれ。フレムはああ言うけど、レーチェルとマーヤを連れていって本当に大丈夫なのか
な?
フレムの計画では、僕たちは明日、『忘却の海』へと向かい、船に乗り『落雷の塔』を襲撃
する。
・・・・僕たちは、ヴァイーラを倒す事ができるのだろうか?
僕らは・・・・この世界を救う事ができるのだろうか?

――――続く

☆     ☆     ☆     ☆

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