私はパパが話すマヤ文明の神話の事を、注意深く聞いていた。
レイ君のお父さんが、極秘で進めていた研究の名は『プロジェクト・マヤ』だったという。
きっとレイ君が持っている、あの人工知能の事に違いないわ!
「・・・・・とても不思議な話ね。私と同じ名前がその研究についていたなんて」
私がそのように言うと、パパはコーヒーカップをテーブルに置き、どこか遠くを見るような目つきに変わった。
「お前の名前『マヤ』はパパとママが相談をして決めたんだ。その理由を言った事がなかった
ね?
実はというとね・・・・」
パパが何か言いかけた時、ママが台所から私たちの所へとやってきて、口を挟んだ。
「マヤ、あなたは死産だったのよ」
「えっ!」
初めて聞く話に、私は部屋中に響き渡るような声をあげた。
ママは入れたてのコーヒーを飲みながら話を続けた。
「ママがあなたを産んだ時、あなたは呼吸もしていなかったし、心臓も止まっていたのよ。
医者は蘇生を試みたけど、うまくいかなかった。心臓が停止した状態が15分続き、医者はあなたの死亡宣告をしたの。・・・・・私は、息をしないあなたを抱きしめて、窓から見えていた夜空の星に向かって、お願いしたの。『どうぞ、この子を生き返らせてください!』って。そうするとね・・・・」
「息を吹き返したんだ」
パパがママの話を引き継いだ。
「・・・・奇跡だ!と医者も驚いていたよ。星に願い事をして、おまえが生き返ったから、私たちはおまえの名前は星にちなんで付けよう、と決めた。ママが願い事をした星は、金星だった。
パパは学生の頃、天文学を学んでいたから、すぐにマヤ文明の事を思い浮かべた。
マヤ文明は、はるか昔に高度な天文学を発展させていた。
マヤの天文学は、特に金星を重視していて、聖なる星として崇めていたんだよ」
私はパパとママの話を聞きながら胸がいっぱいになって、涙が出そうになった。
「・・・・だから私の名前は『マヤ』・・・」
昼頃になり、パパは「買い物にいってくる」と言って、車に乗り家を出た。
ママは洗濯物を始めた。
私はパパの部屋に忍び込み、机の上のノートパソコンを立ち上げて、インターネットで『金星』と『マヤ』の事を検索してみた。
すぐに出てきた。
そこには『ククルカン』という、マヤの神様の事が書かれていた。
画像を見ると、そこには蛇のような、あるいはドラゴンのような姿をした石像の写真が載っていた。
ククルカンは他の神々と共に、人間の創造にも関わっており、『火・水・大地・風』の4元素を司り、マヤ族に生命と文明を授けたとされている。
平和を愛するククルカンは、生贄の儀式をやめさせ、人々を救い、天に昇り金星に姿を変えたという。
私は、そこに書かれた神々による人間創造の事を注意深く読んだ。
神々は3回目に人間を造り直した時、木で人間を創った。
木で造られた人間は、大地に子孫を増やしていったが、心も知性もなく、創造主の記憶もなかった。
・・・・・このお話は、マーヤが私に言っていた『ピノキオ』のお話と、どこか似ている!
これはいったい、どういう事なのだろうか?
この神話の事をもっと調べようとした時、一階から電話の鳴る音がした。
ママが電話に出たようだった。ママはしばらくして、
「マヤ!レイ君からよ!」と私を呼んだ。
私はノートパソコンの電源を切り、パパの部屋を出た。
そして一階に降り、電話の受話器をママから受け取った。
「レイ君、どうしたの?」
レイ君は、声を落としながら、静かに返事をした。
「・・・・やあ、マヤ。実は・・・・・困った事が起きたんだ。僕の家まで来てくれないか
な?」
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エレン兄ちゃんとフレムは、集まってきた人達と一緒に、戦いに出る準備を始めていた。
みんな、緊張をした顔つきになっていたので、あたしも段々と怖くなってきた。
フレムは、あたしとマーヤも連れて行くと言っていた。
あたし達のいる洞窟に、弓矢などの武器を持った男達が集まり、フレムと何か話し込んでいた。
エレンは、フレムから教わった呪文を口にしていた。
エレンが何か呪文を言う度、持っている光の剣が光り輝いた。
イッカクジュウに姿を変えたジョーを見ると、さっきよりも元気がなさそうだった。
頭に生えたツノも、短くなったように見えた。
どうしたのかしら?
皆が戦いに出る準備をするのを、マーヤは静かに眺めていた。
マーヤはあたしの方を振り向き、小さな声で言った。
「レーチェル、『いにしえの子守唄』の事を忘れないでね。あの唄は、必ずあなたを助けてくれるから・・・・」
――――続く
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