電気売りのエレン 第33話 by クレーン謙

ジョーが引っ張る馬車に揺られながら、僕とフレムは「霧ヶ岬」へと向かっていた。
海沿いを西へと進むうちに、濃い霧が出てきて、辺りを包み始めた。
何か物思いにふけっているように見えたフレムは、急に顔を上げて辺りを見回し始めた。
「・・・・やはり、誰かがワシらの事を見ておるな」
「誰がだい?また、ゾーラが『遠見の術』で僕らの事を見てるのかな?」
「いや、ゾーラの『遠見の術』はワシが封じた。それに、この気配は何か別のモノじゃ」
とフレムがまた、謎めいた事を言い始めた。

「まあ、いずれはこの気配の正体も分かるじゃろう。それよりも、エレン、ヴァイーラには気
を許してはならぬぞ。ゾーラも相手についておる」
「ゾーラって、凄腕の魔術師だろう?レーチェルも一緒に居るのかな?」
「おそらくな。・・・・しかし彼らは、そう簡単にレーチェルをワシらに返しはせぬだろう」

僕らが濃い霧の中を進んでいくと、その先に険しい崖がそそり立つ岬が見えてきた。
岬の上に、4人の人影が見えた。
二人の男とレーチェル、そして僕と同い年ぐらいの少女がそこに立っていた。
岬の向こうの海には、霧の中に隠れるようにして大きな船が浮かんでいた。

「フレム、よくおいでなすった。しかしそれ以上は、我らに近づいてはならぬ。そこで止まり
なさい」

長い木の杖を持った男が、僕らに向かって叫んだ。
きっと、あの男がゾーラなのだろう。
フレムは、ゾーラを睨みつけて重々しく口を開いた。
「ゾーラ、随分と久しぶりだな。お前がまさか、ヴァイーラにつくとは思いもしなかった
よ・・・」

ゾーラは持っていた杖を、僕らに向けて言った。
「フレム、俺にはあなたが何を考えているか、手に取るように分かる。あなたは俺らに近づ
き、俺を石に変えようと思っていましたな?違いますかな?」

フレムはゾーラにそう問われ、黙り込んだ。
ゾーラのすぐ隣にはレーチェルがいて、目を真っ赤にしていた。
きっと、恐怖と不安の為、泣き疲れてしまったのだろう。
レーチェルの隣にいる少女は誰なのだろうか?
周りで起こっている事にはまるで無関心であるかのようにして、その少女は立っていた。
もう一人の、いかにも貴族らしい服をまとった男がフレムに言った。
「そなたが、フレムですな?私の父を石に変えた。まあ、しかしそれは過去の事です。私は別
に復讐をしたいとは思ってはいません。・・・・私は、ただこの地で事業を成功させたいだけ
なのです。私は何も争いを起こしたい訳ではありません」

フレムはヴァイーラには何も答えず、ゾーラに向かって叫んだ。
「ゾーラ!お前は、この男の言う事を信じておるのか!本当にこいつが『魔術の国』の復興を手助けしてくれるとでも?」

その時、ズガーンとどこかから地響きのような音が聞こえ、ヴァイーラの船の近くの海面に水
柱が立った。
どこかからヴァイーラの船を目がけ、大砲が撃たれたようだった。
濃い霧の中から、いくつもの船影が現れ、ヴァイーラの船に向かっているのが見えた。
ゾーラはそれらの船を見て、フレムに向かって言った。

「フレム、騙したな!誰も連れてこぬ、という約束だろう?」
「いや、待て。ワシはギルドには何もするな、と命じておる!彼らは勝手に行動を起こしてお
るのじゃ!」
とフレムは、ゾーラ達に向かって言ったが、ヴァイーラ伯爵はそれらの船を見ても何も顔色を
変えなかった。
ヴァイーラは、ゆっくりと手を上げ、自分の船に向かって何か合図を送った。
ヴァイーラの船の砲門が開き、大砲の砲身がギルドの船に向けられた。
そしてヴァイーラが手を振り下ろすと、ズガーンと大きな音を立てて、大砲が火を噴いた。
青白く光り輝く光の玉が、ギルドの船に向かってまっすぐと、飛んでいった。
光の玉が、船に着弾すると、船は眩しいばかりの光を放ちはじめ、しばらくすると、船は完全
に消えてしまった。
「なんだあれは!魔術か?」
フレムは驚きながら言った。
ヴァイーラは、薄気味悪い笑みを浮かべながら言った。
「・・・・あれは魔術ではなく『科学』ですよ。ただし、その科学はあなた方の魔術を応用は
していますがね・・・・。あなた方には、しばらくは我らの科学技術の成果をご覧になってい
ただきましょう」

ヴァイーラが更に合図を送ると、ヴァイーラの船は次々と光の玉を放ちはじめ、ギルドの船は
為す術もなく、次々と消えていった。
僕は目の前で起こっている地獄絵図を、声を上げる事もなく、何もする事もできずに、ただ見
ているばかりだった。

――――続く

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