「緑色のアイツ」試し読み~『五つの色の物語』(ホテル暴風雨絵画文芸部)より

明けましておめでとうございます。
とても大変な時代となり、地上全ての人々がこの影響を受けてしまっています。
それこそ、アマゾンの奥地に住むような先住民でさえ、現在進行中のこの事態から逃れられません。
人類が経験した事がない激動の時代だと言っても過言ではないでしょう。
昨年、ホテル暴風雨でのご縁があって「ホテル暴風雨 絵画文芸部」という部活動を開始しました。
そして『五つの色の物語』というアンソロジー本を2020年11月に発行しました。

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メンバーは5名で、本来はイラストレーターなのですが、文章も書きます。
表現をしている人ならば、このような時代、何らかの影響が表現上で現れているのではないか、と思います。僕の場合はモロに現れています(勿論、それだけではなく、生活上にも現れています。妙な言い方ですが、ここで表現家は何らかの変異を見せないと、ウイルスに負けてしまうと思うのです。今回、あまりにも犠牲者が多いですし、そこに対応しないと、と。たとえ無意識のレベルであったとしても)。

今回のアンソロジー、『色』がテーマになると決定し、僕は『緑色』をテーマに書くと決まって、さあどうしよう、と考えました。やはり、現在のこの事態を取り入れないといけないと思い、以前に書いた短編を大幅に書き直し掲載する事に。その際、メンバーから助言もあり、何とか完成させたのですが、最後の最後まで、テーマを何とか着地させようと悪戦苦闘しておりました、正直言いますと。
もしかしたら『緑色』というテーマから若干離れてしまったかもしれませんが、辛うじて『色』のモチーフは守れたと思います。つまり『緑色』ではなく『色』そのものがテーマだと言っていいでしょう。

今回、『五つの色の物語』試し読みとして、悪戦苦闘した物語、冒頭の文章を掲載します。

(by クレーン謙)

『緑色のアイツ』 クレーン謙

全身緑色のそのイモムシは葉っぱを食べ続けていました──何も考えずに、イモムシはひたすら口に葉っぱを放り込み、ムシャムシャと頬張っています。次から次へと。いくら食べても食べてもイモムシの食欲は収まりそうにありません。

周りを見渡すと、植物の葉はあらかたイモムシに食べ尽くされていました。 まるまると太ったイモムシは、それでも食欲は収まらなかったので、重い体を引きずり他の木の幹へと移り、そこに生い茂る葉っぱも食べ始めました。
そしてみるみる内に、その木の葉もなくなっていきます。他の昆虫達は迷惑そうに、または見下すようにイモムシを見ていました。 しかし、当のイモムシはそんなのは全く気になりません。木の幹に大きな巣を張ったジョロウグモが、業を煮やして言いました。

「フン、なんという醜く、いじきたない生き物なのだろうね。……あんたには食べることしか生き甲斐がないのかい? 」

イモムシは食べるの一瞬やめて、ジョロウグモを見上げます。

「そうさ、確かに僕は食べることが大好きさ。しかしそれが、どうしたと言うんだい?」

ジョロウグモは長い足を動かし、巣をつたってイモムシに近づきます。

「周りをご覧よ!葉っぱが全部なくなったので、他の虫が近づいてきやしない。おかげで、私は虫が捕まえられないのよ。私だけじゃないわ。他の生き物もあんたのせいで、随分と迷惑をしているのよ」

イモムシはそのように言われ、目を凝らし辺りを見回します。木の下の方を見てみますと、そこに一匹のテントウムシがいて、イモムシを睨んでいました。テントウムシは怒ったような顔をしながら言います。

「やい、そこのブクブクと太ったイモムシ!お前が葉っぱを全部食べたから、僕が食べるアブラムシまで居なくなったじゃないか!お前はな、大食漢でそのうえ姿が醜いだけの生き物さ!……どうしてくれんだ、こんなに僕らの住む環境をメチャメチャにして!」

イモムシが上を見上げると、ミツバチが飛んでいるのが見えました。ミツバチは恐ろしい形相を浮かべながら、イモムシに叫びます。

「そうだ、てめえだ!てめえは葉っぱだけではなく、花まで食っちまいやがったな。おかげでオレは花の蜜が採れねえんだよ。実にてめえは意地汚い生き物だ。葉っぱのような紛らわしい色をしやがって!てめえの様な役立たずの生き物は、死んだほうがいいんだ。いいか緑色のデブ野郎、今度ここに来て、てめえがまだここに居たらオレ様の毒針をお見舞いするぜ!」

――――つづく

続きはぜひ『五つの色の物語』(ホテル暴風雨絵画文芸部)でご覧ください。下の画像からamazonの販売ページへどうぞ!

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『五つの色の物語』について、他の収録作品など詳しくはこちらのページを。

『五つの色の物語』収録の他の作品の試し読みページは↓こちら↓です!(順次掲載予定)

<赤の物語>芳納珪 / 服部奈々子作 「塑界の森」

<黄の物語>浅羽容子作 「サスキ氏の黄色い一日」

<白の物語>松沢タカコ作 「Confession of Love」

<青の物語>斎藤雨梟作 「はじめの青い海」

(2020年11月までにAmazonでご注文くださった方へ:初期出荷分に印刷不良がありました。こちらのページを参考に、修正版への交換手続きをお願いいたします)

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