ある国にとても強い戦車がいました。
戦車の大砲は、それは強力で敵に恐れられていました。 戦車は自慢の大砲を撃ち、次々に敵を倒していきます。
――ある戦いの日、敵の砲弾があたり、戦車は大ケガをしました。 右のキャタピラがなくなってしまいましたが、それでも戦車は戦いました。 そして敵をやっつけました。
戦争に勝った戦車は国の英雄になりました。戦車はみんなの人気者になりました。
町で会った子供達にサインをねだられ、戦車はサインをします。
長い戦争が終わり、それから何年もたちました。 戦争に勝った軍隊は、敵が攻めてこないように、もっと強い戦闘機や兵器を作りました。 キャタピラがない戦車は軍隊では、いらなくなりました。
戦車は町の広場に飾られました。 やがて訪れる人もいなくなり、何十年もたちました。
国は平和になり、強い戦車はすっかり年をとり、人々から忘れられていきました。
――ある夜の事、ぐっすりと寝ていた戦車は、 誰かいる事に気がつきました。
男の子が、戦車の中で隠れていたのです。 戦車は男の子に聞きました。 「 ―― どうしたんじゃね ? こんな夜おそくに ? 」
戦車がいきなり話しかけてきたので、驚きましたが、男の子は返事をしました。
「ボクのことを いじめる子たちがいるんだ。だから ここに隠れているんだ …… 」
それから毎日、男の子は戦車の中で遊ぶようになりました。
戦車と男の子は友達になりました。
男の子は、持ってきたプラモデルを作りながら戦車に言いました。
「ボクね、何かを作るのが好きなんだ」
「学校に行かなくても、いいのかね ? 」 戦車は男の子にききました。
「だって学校に行くと、いじめられるんだもん …… 」と男の子が言ったので、戦車は言いました。
「いくじなしめ ! ワシはキャタピラがなくなっても、敵と戦ったのじゃ。 ―― よし、ワシが そのいじめっこを、とっちめてやろう ! 」
ガソリンが少し残っていたので、戦車は男の子をのせて学校へ向かいました。 ガタガタピッタン ガタガタ ピッタン と年をとった戦車は町の中を走っていきます。 町に人々は驚いて、戦車が走るのを見ています。
学校についた戦車は、いじめっこを見つけると言いました。
「弱いものイジメをするのは、おまえか ? ワシはそういうのは大嫌いじゃ。こんど弱いものをいじめたらワシの大砲を、おみまいするぞ ! 」
いじめっこは、泣き出して家に逃げ帰りました。 戦車を見て驚いた先生たちも、学校から逃げてしまいました。
いじめっこがいなくなって、子供たちは大喜び。 戦車は子供たちの人気者になりました。 戦車は子供たちと学校の校庭で、かくれんぼなどをして一緒に遊びました。子供たちと遊べて、戦車はとても幸せでした。
学校から家に逃げ帰ったいじめっこは、お父さんに言いました。
「くるった戦車がボクのことを脅かして、そして学校を占拠したんだ ! あの戦車をやっつけて ! 」
いじめっこのお父さんは、軍隊の隊長さんです。
「なんだと ! それはムホンじゃ !! なんたることだ ! 」
隊長は軍隊に命令しました。 「くるった戦車が、学校で子供たちを人質にしておる。あの戦車を破壊せよ ! 」
隊長の命令で、最新の戦闘機や兵器が学校を取り囲みました。 それを見て子供たちは怖くなりました。泣き出す子もいました。
学校を取り囲んだ軍隊が、戦車にむかって言いました。
「人質の子供たちを解放して、すぐに投降をせよ ! 明日の朝までに投降せねば、攻撃を開始する ! 」
「 ――フン、あんな戦闘機なんか、ワシの大砲で、やっつけてみせるわ ! 」 戦車は大砲を戦闘機にむけて、学校を出ようとしましたが、男の子に呼び止められました。
「まって! 外に出ると、すぐに撃たれちゃうよ ! ここにボクたちと居ると、敵は攻撃しないんだから、ここに居て ! 」
戦車は男の子に、そのように言ってもらえて嬉しくなりました。
戦車は子供たちと学校にいることにしました。
夜になりました。 子供たちは疲れて、みんな寝ていました。寝息をたてながら寝ている男の子に、戦車が言いました。
「 ―― これはワシの最後の仕事じゃ。ぼうやたちと、出会えてワシは嬉しかった。強く生きるのじゃぞ」戦車は子供たちを起こさないように、静かに学校の外へ出ました。
戦車は軍隊にむかって言いました。
「ワシは強いぞ ! なぜならワシはキャタピラもなく、年もとっているのに、たった一人で戦っておるからじゃ ! 」
でも戦車は、自慢の大砲を撃ちませんでした。 町には子供たちの家族がいることを知っていたからです。軍隊は戦車を攻撃しました。そして、あっというまに戦車は破壊されてしまいました。
――朝になり、子供たちは学校の外に出ると、鉄屑に変わり果てた戦車を見つけました。
子供たちはそれを見て、みんな泣きました。大人たちは不思議そうな顔をして、子供たちが泣くのを見ています。
戦車と仲良しだった男の子は泣きながら、その鉄屑を学校の校庭に持ち帰りました。
プラモデルが得意な男の子は、鉄屑で大きくて強そうなすべり台を作りました。
子供たちは大喜びで、そのすべり台で遊ぶようになりました。
すべり台に生まれ変わった戦車も、きっと満足でしょう。
☆ ☆ ☆ ☆
※ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・漫画・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内> <公式 Twitter>