マトモの国のアリス

ある日の事、アリスがいつものように、帽子屋や三月ウサギ達と、お茶会を開いていました。
みんなは、いつ終わるとも知れない無駄話に花を咲かせながら、お茶を楽しんでいます。
すると突然、茂みから、人間が飛び出してきました。

その人間は、身なりもよろしく、まるでビジネスマンのような、マトモな格好をしていまし
た。
アリスは、その人間を見て驚きました。
「あら珍しい!!こんな所にマトモな人間が来るなんて!!」

その人間はロレックスの腕時計を見ながら「急がないと急がないと!会社に遅れてしまう!」
と言いながら、お茶会をやっているアリス達の側を走っていきました。

興味をもったアリスは、お茶会を抜け出し、その人間に付いていく事にしました。
人間は庭を通り抜け、森の奥へ奥へと入っていきます。
人間は森の奥にある木の切り株を見付けると、そこに空いている穴の中へとスルリと入ってい
きました。

アリスも後に続き、その穴の中へと入っていきました。
それはとても深い穴でした。
深い穴の中を、アリスはドンドンと落ちていきました。

どれぐらい落ちたでしょうか。
ようやく穴の底に着地すると、そこは驚いた事に、マトモな国だったのです!
人々はみんなマトモな格好をしており、マトモな生活しており、マトモな学校や会社に行って
いました。

「驚いたわ!ここはなんて、マトモなんでしょう!私の国では、とても考えられないわ!」
町を行き交うマトモな人々を見ながら、アリスは言いました。

この国ではなんと、時間どおりに電車がくるのです!
これには、アリスはびっくりしました。
おまけに横断歩道では赤信号になると、ちゃんと人々が足を止めるのです。
「なんと律儀なのかしら!!」

アリスが、マトモな町並みを見学しながら歩いていると、
チェシャ猫にそっくりな猫に出会いました。
「あらチュシャ猫さん、こんにちは!ご機嫌は、いかが?」
とアリスが猫に話しかけても、
「ニャー」
としか返事をしません。

「なんてこと!この国の猫は言葉をしゃべれないのね!」

その国では、子供達もマトモでした。
子供達はマトモに朝から夕方まで学校で勉強をしていました。
更に、驚くべき事に、その後は夜遅くまで進学塾で勉強をしているのです。

「あんなに勉強をして頭がおかしくならないかしら?ちょっと心配だわ」

子供の事が心配になったアリスは、進学塾に向う小さな子供に声をかけてみる事にしました。
「ねえキミキミ、そんな勉強ばかりしていないで遊ばない?」

教科書を読みながら歩いていたその子供は、アリスを見ながら落ち着いた声で言いました。
「どうして?」

「息抜きよ。あまり勉強していれば、息が詰まるでしょ?たまには羽目を外さなきゃ」

「それはあまりマトモな意見じゃないね。・・・どんな遊びだい?」

「そうね、こんな遊びはどうかしら?」
と言いながらアリスはポケットから、小さな小瓶をふたつ取り出しました。

「なんだいそれは?」
「こっちの小瓶はね、飲むと体がドンドンと大きくなるの!そしてこっちの小瓶はね、飲むと
体がドンドンと小さくなるのよ。・・・どう?面白そうな遊びでしょ?」

子供はアリスの事を、冷たい目付きで見ながら、
「おねえちゃん、病院へ行ったほうがいいよ」とマトモな意見を言い、その場を後にしまし
た。

アリスはあっけに取られながら、その場に立ちつくしました。
「子供までがあんなマトモな事を言うなんて!!この国はどうかしているわ!」

アリスは町に出てマトモじゃない人を探しましたが、みんなアリスを白い目で見るばかりで誰
も相手にしてくれませんでした。

誰かマトモな人が通報したのでしょう。
パトカーと救急車がアリスを追いかけてきました。

アリスは逃げながら、叫びました。
「もうこんなマトモな国はこりごりだわ!!お願い誰か私を助けて!!」

・・・・・・・ふと目を覚ますとアリスは、不思議の国のお茶会に戻っていました。
「アリス、どうかしたのかい?」と三月ウサギがアリスに聞きました。

「あたし、夢の中でとても、マトモな国へ行っていたの・・・・」
「マトモな国へ?それはとても怖い夢だったね、アリス」

「ええ、ええ。何しろみんながみんな、マトモだったのよ!それは恐ろしい国だったわ!やっ
ぱり不思議の国が一番よね」

そう言いながら、アリスは半分割れた茶碗で、残ったお茶を飲み干しました。

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