オオカミになった羊(中編)by クレーン謙

さてさて、ところ変わってここは羊の村の小学校。
メーメーと可愛い声をあげながら、今日も子羊達が学校にやってきました。

子羊達は学校で『いかにして羊らしく正しく生きるか』などを勉強をするのです。
子羊達が教室に集まり、チャイムが鳴ると授業が始まりました。
真っ白いヒゲをたくわえた先生は、咳払いをひとつ、今日も欠席者がいない事を確認、白チョークを手にしました。
先生は年老いた手で、ヨレヨレと黒板に何かの絵を描き始めます。
……あまり上手ともいえませんけど、どうやらそれはオオカミの絵のようです。

「……今日の授業はオオカミの話じゃ。村を取り囲む塀の外のオオカミの事は、皆知っておるであろう。信じられぬかもしれぬが、昔オオカミは羊であったという」

先生がそのように言うのを聞き、子羊達は「えーっ ! 」と驚いたような声を出します。
「先生、あんな恐ろしいオオカミが昔は羊だったんですか ? 」

「さようじゃ。あまりにも昔の事なので、何故羊がオオカミになったのかはワシにも分からん。
じゃが、よいか、決してオオカミには近づいてはならぬ。オオカミは神聖な動物とされておるのだが、所詮オオカミはオオカミ。ヤツらは戦う事しか頭にないのじゃ。……オオカミはワシらのように音楽も聴かぬし、絵も描かぬし、自然を愛でる事もない。オオカミが考えておるのは、戦う事、狩りをする事だけなのじゃ。もちろんワシら羊のように他者を思いやる心もない」

教室のクラスメイトたちは、先生の話をうんうんと頷きながら聞いていましたけど、ショーンだけは頷く事なく「本当にそうなのかな ? 」と考えていました。
というのは、幾度となくショーンはオオカミの遠吠えを耳にしていて、その声には何やら懐かしさを感じてしまうのです。
ショーンにはオオカミが、自分とは違う生き物だとは思えずにいました。

学校が終わって、家に帰るとちょうどお父さんが畑仕事から戻ってきました。
お父さんは羊たちの大好物サニーレタスを育てています。
ショーンはお父さんに聞きました。
「ねえお父さん、学校の先生がオオカミは怖い生き物だと言ってたけど、本当かな ? 」

お父さんは手にした鋤から土を落としながら、返事をしました。

「オオカミはとても獰猛な生き物だよ。あいつらは私たちと違い肉を喰らうのだ。……もちろん羊も食べるだろうな。だが、どうした訳だか、オオカミがいるおかげで我らの村は平和が保たれている、と言う者もいる。
確かに長年、我らの村には狐などの肉食獣が襲ってこない。だから村人は柵の外に肉などの供物を置くのだよ……。オオカミは危険な生き物だから、討伐兵を差し向ける事を考えている者も多い。今、村はオオカミを滅ぼすべきかどうかで、意見が真っ二つに分かれている」

でもお父さんから、そのように説明を受けてもショーンの気持ちはスッキリしません。
夜になり、お母さんがショーンの部屋の明かりを消すと、真っ暗になりましたが、ショーンはなかなか寝付く事ができません。
止む無くショーンは目を瞑って「オオカミが一匹、オオカミが二匹……」と数え始めました。
昔から村の子羊たちは、寝れない時にはオオカミの数を数えるのです。

しかし、いつもの事ですがショーンが101匹目まで数えると、途中からオオカミは羊に変わってしまうのです。
羊が羊の数なんか数えていたら、寝れなくなってしまします。
ショーンが目を開いてベッドから起き上がると、ちょうどオオカミの遠吠えが聞こえました。
今晩の遠吠えはいつもにも増して、寂しそうに聞こえます。
ショーンはベッドから降りると、お父さんとお母さんに気付かれぬよう、家の扉を開けて、そっと外へ出ました。

……家の外に出ると遠吠えが、よりはっきりと聞こえました。
ショーンはそれを聞き、思いました。
「オオカミは誰かを守っているんだ ! きっとそうに違いない ! でも先生はオオカミは狩りをする事だけが生きがいで、他者への思いやりなんか無いって言ってたじゃないか」

ショーンが月明かりに照らされた村を見渡しました。
村の羊たちはオオカミの襲撃を恐れて、家の中で息を潜めているのでしょう。
村人がオオカミを滅ぼす事を考えている、というお父さんの話をショーンは思い出しました。

ガサリとショーンの後ろの茂みから音がしました。
驚き、振り返ると茂みからオオカミが顔を出し、ショーンと目が合いました。
……そのオオカミはショーンと同じぐらいの子供のオオカミです。

――――つづく

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