ゾウムシ〜エサとなる植物の数だけ種類が存在するゾウムシ、命名の姿勢を問う

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第5回 ゾウムシ〜エサとなる植物の数だけ種類が存在するゾウムシ、命名の姿勢を問う」

 ゾウムシとは、甲虫目ゾウムシ上科の昆虫でカミキリムシなどの仲間である。ゾウの鼻のように口がのびている種類が多いことからゾウムシと名付けられた。東京農業大学・昆虫学研究室の小島弘昭教授によると、現在、発見されているゾウムシは6万種。しかし、少なくとも約22万種のゾウムシが存在すると推測されている。

 一般的にゾウムシの体は丸く、体表は硬くて頑丈な外骨格に覆われる。頭部から吻(口先)が長く伸び、その先に口がある種類が多い。和名の「象虫」はこれを象の鼻に見立てているが、本当は口である。成虫は数mmから数cmくらいの小型の甲虫で、形態も様々である。

 ヒゲナガゾウムシ科のナガアシヒゲナガゾウムシはゾウムシ類の中では吻が短い。体長は6mm前後で、背中には細かい斑点模様がある。名前の通り比較的足が長く、触覚も長い。また、ゾウムシ科のクリシギゾウムシは栗の木に付くゾウムシで、その近縁種にコナラシギゾウムシがいる。こちらは食性によるネーミングである。

 命名は神聖な行為である。

 自分の子供に名前をつける時は、数ヶ月前からいろいろな候補を挙げて、熟考に熟考を重ねるだろう。ある時は通勤電車の中で窓の外を眺めながら、ある時は夜空を流れる流れ星を眺めながら、ある時はトイレの中で、子供の人生を思い描きながらひねり出すのである。子供の名前は一生変えることができないが故に真剣にならざるを得ない。

 一方、生物の名前はどうだろう。象に似ているからゾウムシ。触角が長いからヒゲナガ。足が長いからナガアシ。安直すぎるような気がするのは私だけであろうか。しかも動物の名前は、その動物が死んでも、その動物が絶滅しても名前だけは永遠に残る。学名には命名者も記載され、命名者の名前もまた永遠に残る。ところが、自分の子供以上に真剣な命名を施している学者はどれだけいるだろうか。フンコロガシが不憫でならない。

 さて、ゾウムシは植物食だが、植物なら何でも食べるという訳ではない。多くのゾウムシは、それぞれ特定の植物をもっぱら食す。言うなれば究極の偏食家である。

 冒頭で紹介したとおり、ゾウムシは世界で少なくとも6万種が見つかっている。その多くは特定の植物に依存する形で寄生していて、寄主植物が変わればゾウムシの種類も変わる。エサとなる植物の数だけゾウムシの種類がいると言っても過言ではない。

 また、ゾウムシの先祖はジュラ紀の終わり頃にハムシ類と分化したと考えられている。この頃は裸子植物が繁栄していて、主にスギなどの針葉樹を食べていた。その後、被子植物が出現した後に分化したゾウムシ科は寄主植物特異性を発揮し、現在見つかっている6万種のうち、4万5千種がゾウムシ科である。

 ゾウムシ科の繁栄は偏食がもたらした結果と言えなくもないが、諸刃の剣でもある。寄主植物の絶滅は、すなわちそれを主食としていたゾウムシの絶滅を意味する。もしかしたら、現在のゾウムシ科の繁栄と同じくらい、裸子植物を食べていたゾウムシ祖先も繁栄していたのではないだろうか。つまり、絶滅した裸子植物を食べていたゾウムシ祖先はその植物とともに絶滅してしまった。そして、現在確認されている種はその生き残りのみということである。

 見えているものが全てではない。どこかで聞いたことがある言葉だが、生物の進化でも同じ事が言えるだろう。まだ見つかっていない種が15万種以上と推計され、絶滅してしまった種も含めると、どの位の種数になるか見当もつかない。ゾウムシの仲間だけでこの数字である。生物の多様性は計り知れない。確かに、これだけの種類に名前をつけるとすれば、今なら安直なネーミングも理解できる。

 ところでタジン鍋をご存じだろうか。北アフリカ地方の料理に使われる陶製の鍋である。円錐形に似たとんがり帽子の蓋が特徴的で、野菜と肉をその鍋に入れて弱火にかけると、水を入れなくても野菜の水分で美味しく蒸し上がる。一番下には豚肉をひくと野菜が焦げなくていいし、少し焦げた豚肉が美味しい。我が家では毎朝このタジン鍋で豚肉と白菜を蒸して食べているのだが、ある時鍋にひびが入ってしまった。代わりの鍋を近所のホームセンターで探したものの、どこにも売っていない。ネットで探すが結構いいお値段がする。ある時リサイクルショップに立ち寄った時、ふと見るとタジン鍋が500円で売られていた。即買いである。

 人間社会には流行というものがある。ファッション、言語、食など、流行はいずれ衰退する。進化においてもこの流行に似たムーブメントが存在すると思う。そして、衰退した流行は一部で定番となるが、多くは簡単に手に入らなかったり、絶滅したりする。ナタデココは今でもスーパーで売られているし、タピオカミルクティーもコンビニで売られるようになったが、タジン鍋は絶滅の危機に瀕しているらしい。世間からはアウトオブ眼中である。(言葉もまた流行と衰退を繰り返す)

 しかし我が家ではタジン鍋が定番となり、欠かせない存在となった。この習慣は特異的だと思う。もし、地球外生命体が我が家の食習慣をつぶさに観察し、命名するとすればタジンナベビトになっているかもしれない。

<編集後記>
※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第5回「ゾウムシ」 と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第5回「ゾウムシ〜エサとなる植物の数だけ種類が存在するゾウムシ、命名の姿勢を問ういかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

タジン鍋、流行りましたね! なにそれ知らないというお若い方はその辺の長老に聞いてみてください。私は持っていないのですが、水が極めて貴重な地域で使われる鍋ということで本当によくできていると聞き、形も面白いので一定値の興味は持続的に持っています。ぐっちーさんだけでなく、今もお使いの方は多いでしょうから、地球外生命体に「タジンナベビト」と命名されても「タピオカビト」よりはまあ納得できるような。

それにしても「タジン」て何でしょう? 他にも気になることがいろいろあります(よね?)

というわけで、

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