レンカク〜一夫一妻制の人間でよかった

レンカクは主に熱帯に住むチドリ目、レンカク科に属する鳥類である。アメリカレンカク、アフリカレンカク、アジアレンカクなどがおり、日本で観察される種はレンカクとされている。レンカクの特徴として挙げられるのが、その姿である。レンカクは全長約40センチメートルで鳥類としては大型の部類に入ると思う。鳥の姿には頭、首、体、足とあるが、その比率が頭1:首1:体3:足5と足が全体の半分近くを占め、特徴的である。足が長い鳥類として思いつくのがフラミンゴであるが、フラミンゴは頭1:首3:体3:足3くらいで足も長いが胴体や首も長い。映画「スターウォーズ」に出てくるAT-ATウォーカーという帝国地上軍が使用した4脚歩行の兵器があるのだが、それを2脚歩行にしてさらに素早く動くような、ちょっとだけレンカクはメカニックな感じがする。

レンカクは熱帯地域の沼地に生息する。沼地では足が取られやすく、長い足は泥に埋まりにくい構造である。さらに足だけではなく指も長いので単位面積あたりの重量が少なくなって埋まりにくい。また、スイレンなどの水草の上を移動することができるので、これらの生息環境に適した形状をしている。スイレンの上をレンカクの親子が歩く動画が掛川花鳥園のYouTubeチャンネルで公開されている。動画の最後には子供のレンカクが、親レンカクの羽の中に入って足だけが出ている様子がわかる。この動画では子供が1羽だったが、数羽の子供が羽の中にいることもあり、その時は子供の足だけが羽の下から生えているホラーな映像を見ることができる。

レンカクは子育ての姿だけがホラーなのではない。子育ての姿勢というか、方針もホラーなのである。レンカクは非常に珍しい一妻多夫である。哺乳類では母乳を与えなくてはいけないことから育児にはメスが必須で、哺乳類の約90%がメスだけで子育てをし、残り10%が両親で子育てをする。一方で鳥類では90%以上が両親で子育てをする。これは交代で卵を温める必要があり、また孵化した後も短期間で成長させるために餌を与えなくてはならない。もし片親だけで育てるとなると卵を温める時間が半分になり、与える餌の量も半分になり、更には巣を開ける時間が倍になることで外敵に狙われやすくなる。つまり鳥類は両親で子育てをすることで生残率が高くなり繁栄できたと考えることもできる。ただし、この法則外の行動をする鳥類もいる。鳥類の約90%が両親で子育てをし、残り10%のうち約8%がメスだけで子育てをし、そして残り2%がオスだけで子育てをする。レンカクはこの2%に含まれ、他にはダチョウ、タマシギなども含まれる。(鳥類9000種のうち36種、0.4%という記述もある)

レンカクのオスは自分で巣を作りメスの来訪を待つ。そこにメスがやってきて交尾の後、卵を産んで次のオスを求めて飛んで行ってしまう。残ったオスは卵を温めて子供を育てる。おそらくレンカクは熱帯地方の湿地帯に棲息し、あまり温度が下がらず、餌が豊富で、外敵の脅威が低いためこのような子育てができているのではないかと推察される。

さて、飛び立って行ってしまったメスはこの後どのような行動をするのだろうか。実は子育て中のオスを見つけたらその子供を殺し、子供がいなくなったオスと交尾して自分の子供を育てさせるのである。なんともホラーな生態ではないか。つまり例えばロイドという父親がアーニャという娘を育てていたとする。そこにヨルという母親が現れてアーニャを殺して自分の子供を産ませるというおぞましい展開である。いくら殺し屋だったとしてもアーニャを殺すなんて断じて許されない。あくまでたとえ話であるが、固有名詞を与えるとホラー感が増す。

ただしレンカクにとっては繁殖戦略であり、ヒトの道徳を当てはめることはできない。自分の遺伝子を残すためには同種であっても他人の子供を殺して繁殖の機会を強引に創出するのである。レンカクという生物種にとって同種の子供を殺すことは負の影響がありそうだが、進化の過程でこのような生態を持つレンカクが生き残っているということはそれなりの正の影響があったということなのか、あるいは負の影響を受けても生息環境などの正の影響が大きかったのかもしれない。

他の種では自分の子供を殺す例もある。多く生まれた子供達に十分な餌が与えられなかった場合、一番小さい子供から巣の外に追い出したり、育児放棄をしたりして死なせてしまうのである。その年によって餌環境は変動するため、あらかじめ多めに子供を産んで環境が良かったら全員大人に育つし、環境が悪かったら口減らしをして全滅を防ぐ。合理的と言えば合理的ではあるが現代のヒトの感情としては何とも言い難い残酷さが残る。

ヒトは人類全体を同類とみなすことができる想像力を持っている。妄想力と言ってもいいその想像力は、今や地球全体、あるいは宇宙全体を同類とみなすことができる慈悲深いものとなった。一部例外はあるものの、そのおかげで自分たち家族が他者から危害を加えられる危険を大幅に減少させることができている。人間でよかった。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第77回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第77回「レンカク」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第77回「レンカク〜一夫一妻制の人間でよかった」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

レンカクがたくさんの脚をぶら下げて睡蓮の葉の上をひょいひょいと歩くさまはまさにホラー。みなさまも是非一度ご覧ください。「レンカク 脚」などの検索ワードがおすすめです。 AIが作った変な画像かと思うこと請け合い。いろいろすごいところのある鳥です。

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。レンカクについて、動物界の子育てについて、など何でもお話いたしましょう。「新しい犬慣用句」を思いついた時にもこの機会にぜひご参加を! 参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>