シファカ〜あるあると生物多様性

シファカはアフリカ大陸の東側に位置するマダガスカル島に生息するキツネザルの仲間である。体長は約50㎝、尾も含めた全長は約1mで、木の葉や花、果実、木の芽や皮を食べる草食性である。シファカ属には9種が確認されており、その中でもベローシファカは地面を移動するときの姿が可愛らしいと人気である。基本的にベローシファカは樹上で生活するが、地上での移動には人間のように前方に移動するのではなく、横向きになって飛び跳ねるように移動する。その際、疲れたら左右を入れ替えて飛ぶ。

多くの生き物が移動する方向は前だと思う。ちなみに、動物の前後は基本的には口がある方が前である。イヌ、ハクチョウ、ヘビ、カエル、マグロ、ダンゴムシなど移動する方向は前向きである。一方、エビは後ろ向きに移動するが非常にマイナーである。他にタコやイカも後ろ向きに移動している。横向き移動はカニが有名だが、ベローシファカは珍しく横向きに移動する。

生物が移動する理由は主に捕食だろう。餌を食べて生きる従属栄養生物にとって同じ場所で待っているだけでは生命維持のための栄養を摂取することは難しい。例外としてフジツボやカキなどは岩などに付着して一生その場を動くことがない動物もいるが、それらは餌が向こうから勝手にやってきてくれるから移動せずにすんでいるだけであって、多くの場合そうはいかない。口を開けているだけで栄養が摂取できるのは赤ちゃんだけである。

生物が移動する理由としてもう一つは生息域の拡大や繁殖相手との遭遇である。ベローシファカの横向き移動は主にこれらの理由と考えられる。ベローシファカの主生活域は樹上であり、地上を移動することは外敵から襲われる危険をはらんだやむにやまれぬ行為だと推測される。ねぐらにしていた木に餌となる木の実がなくなってしまった場合は移動を余儀なくされる訳だが、自己の行為が招いた結果で危険な地上移動をせざるを得ないのには同情しがたいものの、動物としての避けて通ることができない性である。

先述のようにベローシファカの地上移動は横向きで、その様子がかわいいと人気である。両手を水平に出しジャンプしながら移動するのだが、両手でバランスをとる仕草は愛くるしく、途中で左右を入れ替えて飛ぶ姿も人間くさくて好感が持てる。つまり、これら動物の行動を擬人化することができたとき、かわいいという感情が人間に芽生えるのかもしれない。

この仮説が正しいとすれば、生物の行動を擬人化できたとき、どんな生物に対してもかわいいという感情を抱くことができるということになる。一般的にはかわいい動物とされていないであろうダンゴムシは壁に当たると左右どちらかに移動する。更に壁に当たると前回とは逆の方向に移動する。この行動を観察していると何度壁に当たっても移動し続けるひたむきさを勝手に感じ取ってしまい、擬人化に成功してかわいいという感情を芽生えさせる可能性を持っている。

我々に最も嫌われているゴキブリでさえも、もしかしたら擬人化に成功して、かわいい存在に昇格する可能性もある。餌を食べるときに少し味見をしてからがっついたり、飛び立つ前におしりをふりふりしたり、羽の光沢がモテる要素だったりと、これらの妄想がもし事実だったとしたら擬人化により多少のかわいさを帯びてくると思われる。

昆虫のように一般に嫌われる生物に対してかわいいという感情を抱くマニアは、その対象をうまく擬人化するテクニックを持ち合わせているだけなのかもしれない。つまり、一般人とほとんど変わらないはずである。ただ単に擬人化できる範囲が広いだけなのかもしれない。

擬人化は共感であり、あるあるである。同じ事象に対してあるあるを感じることができる集団は同類と見なすことができる。同類に対しては寛容であり、資源の共有を許す。我々が寛容であるためにはあるあるを増やす必要がある。地域、国、大陸、地球。それぞれの空間的広がりであるあるが共有されていけば同類が増えて寛容になり、資源の共有範囲が広がり紛争になりにくい。いまのところこの空間的あるある圏は人類にのみ適用されているが、これを生物的あるある圏まで拡大し、種を超えたあるあるが共有されたとき、我々は生物多様性の神髄にたどり着くことができるのかもしれない。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第90回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第90回「シファカ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第90回「シファカ〜あるあると生物多様性」いかがでしたでしょうか。今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

シファカ、かわいいですね。
シファカ? 何!? だったみなさまも、移動するときの愛らしい姿を知り、今日からは「シファカって横飛びするサルの仲間だよ〜可愛いよ」と人に説明することまで可能になり、近々どこかでシファカに関する記述を見かけたら、「シファカのことを知っただけで急に目が開かれて世界が広がった!」と感動すること請け合いです。「あるある」にも、こうした知識を得る楽しさ同様、違うものの中にも同質的要素が認められることを「発見する喜び」が含まれているように思います。何かを知って理解するということは自分の頭の中に筋の通った回路を作ることですから、実は「知る」=「あるある」だとさえ言えるのかもしれませんね。

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