夕方、仲間との帰り道っていうのは、なんだかぐっと来るものがあるよな、とトモアキは思う。うすぐらい街角で、順々にわかれていくことになるからだ。
坂の下で、シュウイチとカズオがわかれた。
「カントク、ありがとうございました」
アサ子が言った。アサ子は来週からはカズオのうちに来ないのだ。
「おつかれさま。受験がんばってね。佐野さんなら何の心配もないと思うけど」
二人は大小の影をひいて、坂を上っていった。どこかの家のシチューの匂いがしていた。
それからアサ子たちともわかれる角がきた。
「佐野、クラブはやめないだろ?」
とトモアキがきくと、
「当たり前じゃない」
とアサ子は答えた。
それはそうだ。必修クラブは学校の正規の科目である。
「じゃ、また明日」
走っていくアサ子とトオルの自転車を見送ってから、トモアキとジュンは自転車を押して歩きだした。ジュンのうちはすぐそこだ。
何か言うことがある――そう思いながらトモアキは歩いている。なんだろう、なんだろうと思いながら、いよいよジュンのうちの前に来たとき、そうだ、と思った。
「ジュン、王の腹から銀を打て、だ」
「ん?」
ジュンは門の中に自転車をかつぎ入れながら振り返る。
「王手をあせるなってこと」
「……準決勝の将棋か?」
トモアキはふきだした。ズレてる。おれたちはズレてるぞ。
「バカ。佐野だよ、佐野。じゃあな」
力いっぱいペダルをふみこんだ。一、二、三……。
「言うなよ、だれにも言うなよー」
ジュンのどなる声が遠くなる。こみあげてくる笑いはしばらくおさまりそうもない。
――――完。
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