『いっしょにするよ』(絵・たかしまてつを KADOKAWA)が完成した。書店に並ぶのは今週末だろうか。
ぼくの30冊目の本になる。作り始めたころ、こんなに出版できるとは夢にも思っていなかった。
机に並べるとなかなかの迫力で、我ながらよくやったなあと感心する。
1冊1冊思い出を語ると大変なことになってしまうから、本当にさらっと全体をふりかえってみたい。
それぞれの時期、どんなテーマを持ち、どんなことを考えていたか。
まずはリスト。
<創作>
『とんでいく』絵・岡崎立 福音館書店こどものとも
『いっぱい いっぱい』絵・Terry Johnson 福音館書店こどものとも012
『ながいながいへびのはなし』絵・高畠純 小峰書店
『たまごのカーラ』絵・あべ弘士 小峰書店
『ボールガエル』絵・平出衛 福音館書店こどものとも年中向き
『あるひそらからさんかくが』絵・中辻悦子 福音館書店こどものとも年少版
『ぼくはあやまらないぞ』絵・カワシマミワコ 愛育社
『おうさまになったネズミ』絵・せべまさゆき PHP研究所
『ぷしゅ~』絵・石井聖岳 岩崎書店
『かいじゅうじまのなつやすみ』絵・早川純子 ポプラ社
『はっぱみかん』絵・山口マオ 佼成出版社
『おしゃれなのんのんさん』絵・にしむらあつこ 岩崎書店
『おばけのもちつき』絵・竹内通雅 世界文化社おはなしワンダー
『たいようまつり』絵・西村敏雄 イーストプレス
『にっこりにこにこ』絵・市原淳 講談社
『わーらった』絵・市原淳 講談社
『おやゆびさん』絵・ひろかわさえこ 鈴木出版
『ふしぎなトラのトランク』絵・斎藤雨梟 鈴木出版
『青のない国』絵・長友啓典&松昭教 小さい書房
『ぬいぐるみおとまりかい』絵・岡田千晶 岩崎書店
『うしのも―さん』絵・西村敏雄 教育画劇
『とりがいるよ』絵・たかしまてつを 角川書店
『ニワトリぐんだん』絵・田川秀樹 絵本塾出版
『たまごがあるよ』絵・たかしまてつを 角川書店
『いっしょにするよ』絵・たかしまてつを 角川書店
<翻訳>
『とりとわたし』文・ケビン・ヘンクス 絵・ローラ・ドロンゼック 共訳・ひびのさほ あすなろ書房
『おおきな木のおはなし』作・メアリ・ニューウェル・デパルマ ひさかたチャイルド
『こくばんくまさん つきへいく』作・マーサ・アレクサンダー ほるぷ出版
『かべのむこうになにがある?』作・ブリッタ・テッケントラップ BL出版
<編集>
『ちゃっくりかき』再話・中澤智枝子 著・五足萬 絵・保立葉菜 大隅書店
☆ ☆ ☆ ☆
創作25冊、翻訳4冊、編集1冊。
創作はなんとなく第1期10冊、第2期10冊、第3期5冊に分けてみた。
第1期の作品を見ると、とにかく「これまでなかった絵本を作ろう」という意識が強かったのがわかる。誰の目にも明らかなくらいはっきりした特徴がある、いわば「大技の絵本」が多い。
右からも左からも読める『とんでいく』、画面を上下に分割した『ながいながいへびのはなし』、たまごの殻を主人公にした『たまごのカーラ』、丸と三角と四角しか登場しない『あるひそらからさんかくが』。
実験的なことをやるのがとにかく楽しかった。
新奇な技を封印してオーソドックスな手法の組合せだけで作ってみたのが8冊目の『おうさまになったネズミ』。これはNHKのテレビ絵本になって10回くらい再放送された。
10冊目が『かいじゅうじまのなつやすみ』で、このときは節目を意識した。夢中で走ってきて、ふと立ち止まった。10冊作れば経験値は上がる。これまでと同じくらいの絵本を作っていける自信はついた。ではこれまで以上の絵本を作っていけるか?それが課題になった。
『ぷしゅ~』と2冊同時の原画展を早川純子さん、石井聖岳さんと一緒にやったのは懐かしい思い出だ。2006年6月。会場のブックギャラリーポポタムはオープンからまだ1年だった。
なんとなくだが『はっぱみかん』からが第2期。第1期と比べたら見るからに新奇な大技は減って、中技とオーソドックスな手法を混ぜている印象がある。
自分にとって初めてのことにいくつか挑戦している。幼年童話の『ふしぎなトラのトランク』、大人向け絵本の『青のない国』、実在イベントを題材にした『ぬいぐるみおとまりかい』。
絵本翻訳に興味を持ったのもこのころで、幅を広げたい意識がはっきりあった。
『はっぱみかん』は「人と違う」ことをテーマにしているが、同じテーマは『おやゆびさん』にも流れているし、『とりがいるよ』も広い意味ではつながっていて、大事なテーマは作家生活が続く限り何度でも浮上してくるものだと感じる。
新しいことにチャレンジしつつ、そこで得た武器を手に、子どものころから掘り続けてきた穴をさらに深めていく、そんな型のようなものができた。
20冊目はいつのまにか過ぎていたが、いま数えてみると『こくばんくまさん つきへいく』である。翻訳の3冊目だ。このころは創作と翻訳が混ざってきて、あまり節目の意識が働かなかったのかもしれない。
2009年からの数年は大量の洋書絵本を読んだ。創作の肥やしにしたい気持ちもあったが、それよりただ英語の絵本を読み翻訳するのが面白かった。日本の作家は作らないであろうものがたくさんあって新鮮だった。
そこからぼくが自分で見つけて訳したのが『おおきな木のおはなし』と『こくばんくまさん つきへいく』で、出版社に紹介されて訳したのが『とりとわたし』と『かべのむこうになにがある?』だが、ふしぎと4冊に共通するテイストがあり、しかもぼくの創作のテイストとはやや違う気がする。
編集を担当した絵本はいまのところ『ちゃっくりかき』だけだが、現在進行中のものが2つある。編集にはじつはだいぶ前から興味があった。
創作の第3期は、もう最近の作品だ。
『うしのも―さん』は西村敏雄さんとのコンビ2作目。ぼくは同じ絵描きさんと再度組むことは少なかった。いつも「すでに書いた話とは違う話を書きたい」と思っていたからだ。話が違えば、必要とする絵も違ってくる。
しかし同じコンビで何作も作ることで互いの個性がよくわかり、よりチームワークを発揮できる面もある。同じ絵描きさんと再度組むケースは増えてくると思う。『いっしょにするよ』はたかしまてつをさんと3作目になるし、他の進行中作品も2度目の絵描きさんにお願いしている。
『ニワトリぐんだん』は多くの方に驚かれた。風木さんらしくないとの声もあった。しかし読者を驚かせるのは作者の楽しみである。パニック映画のような絵本で、ギャグ絵本でもある。同時にシリアスなテーマを持つ絵本でもある。そういうことは可能なのだ。
『とりがいるよ』『たまごがあるよ』『いっしょにするよ』ではシリーズものを作る楽しみと苦しみを知った。その話は次回としたい。
このブログは検索で来てくれる読者が多いから、ぼくの絵本を読んだことのない人もけっこういると思う。しかし誰が書いているかは非常に重要である。なぜなら、つまらない絵本を作っている作家の意見を参考にしても意味がないから。
30冊祝いと思って(笑)、どれか読んでいただけるととても嬉しい。
(by 風木一人)
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