初めての持込みで3人の編集長に見てもらった話

初めての持込みで3人の編集長に見てもらった話

20数年前のことだ。福音館書店に初めて持込みに行った。まだ1冊の著書もなかったし、絵本コンペの受賞歴もなかったし、ツテやらコネやらも何もなかった。好きな絵本の奥付に書かれた電話番号を見てそこに電話した。

絵本を作っています、見てください、と伝えると、いついらっしゃいますか、と訊かれ、どきどきしながら日時の相談をした。当時はどこの馬の骨とも知れぬ持込みでもまずは見ようじゃないかという雰囲気が多くの絵本出版社にあった。

福音館書店は巣鴨にあって、駅前の通りをまっすぐ左へ行くと5分ほどでビルが見えてくる。おなじみの大きな手と小さな手のロゴがついている。
1階の内線電話でS田さん(持込み電話を受けてくれた方)を呼ぶと、3階まで上がってくるように言われた。
名刺交換するとS田さんはこどものとも第一編集部の編集長さんであることがわかった。会議室に通された。

ぼくは3作の絵本ダミーを持参していた。そのうちの1作は『ながいながいへびのはなし』だった。
S田さんは3作とも見てくれて、「あなたの作品は小学生向きかもしれない」と言ってどこかに内線電話をかけてくれた。
まもなくノックがあり、男性お二人が現われた。それが「おおきなポケット」編集長のT橋さんとこどものとも第二編集部編集長のS口さんだった。小学生向け雑誌「おおきなポケット」の編集長がちょうどS口さんからT橋さんに交代したタイミングで、だから新旧の両編集長を呼んでくれたのだった。

作品を誰に見てもらうかは大事なことで、それは決定権のある編集長クラスの人に見てもらう方が得なことが多い。しかし持込みする側が選べることはふつうないから、初の持込みで3人の編集長に作品を見てもらえたのはとてもラッキーだった。

T橋さんとS口さんも2作をその場で見てくれた。3作でないのは1作はS田さんがはずしたからだ。その評価は正しかったと思う。2作はのちに出版されたが、S田さんがはずした1作は結局永遠にお蔵入りとなった。

その場で何か決まるということはなく、しばらく預かって検討してもらうことになった。ごあいさつしてビルを出ると大きく息をついたものだ。緊張で身体がこわばっていた。

そのときの作品はいずれも福音館では採用にならなかったが、3人の編集長さんにはいずれものちに仕事でお世話になった。
T橋さんにはもう少し他の原稿も見たいと言われ、文章のみの短編をいくつか見せたら、来年度連載しないかと言われた。1999年4月号から2000年3月号で発表した「Mr.カゼキのマル秘ばなし」だ。そのうちの数作はこのサイトに再掲している。「作家の秘密」 「海の底の事務所」

いきなり連載をもらったのには驚いたが、当時の「おおきなポケット」は新人に経験をつませる実験場の役割も担っていたのだと思う。1号1作の「こどものとも」と違い、短い作品を多数掲載できる、福音館書店の雑誌としては珍しいスタイルだったからだ。

S口さんのこどものとも第二編集部は赤ちゃん向けと年少向けの絵本を作るセクションで、2001年に『いっぱいいっぱい』(作・風木一人 絵・テリー・ジョンスン)、2004年に『あるひそらからさんかくが』(作・風木一人 絵・中辻悦子)を作った。

そしてS田さんのこどものとも第一編集部では「ながいながいへびのはなし」を検討する中で出てきたアイデアからのスピンオフで『とんでいく』(作・風木一人 絵・岡﨑立 こどものとも2000年11月号)を作ることになる。これがぼくの絵本デビュー作だ。

とんでいく 風木一人 岡崎立

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この絵本が今年(2000年)の4月、月刊誌として世に出てからじつに20年ぶりに市販化された。20年かかっての市販化はかなり珍しいケースといえる。この「珍しさ」ついてはまた回を改めて書こうと思う。

持込みへのアドバイスはひとつだけ

持込みについてアドバイスを求められることがたまにある。
「初めて編集部の人に原稿を見てもらえることになりました。どんなことに気をつけたらいいでしょう?」というような質問だ。

初めてだといろいろ細かいことまで気になるのは無理もない。しかし持込みで見てもらうのは作品であって、あなたではない。就職面接のように人物を見られるわけではない。人物もあまりにアレだったらアレかもしれないけれどふつうは大丈夫。
したがってセールストークみたいなものは全然必要ない。黙って作品を差し出せばいい(いや「お願いします」くらいは言った方がいいか)。

編集者は作品を見る。あなたがどんな服を着ていようが関係ない。
手土産が必要か?と質問されたこともあるが不要だろう。編集者を喜ばせるのはよい原稿だけ。

よってアドバイスは「全力の作品を持っていくこと」くらいしかない。書きためた作品がたくさんあるならその中から自信のあるものをいくつか。
その出版社に合う作品がいいのは言うまでもない。しかし絵本作家志望者の多くは、福音館はどんな本を出しているか、ポプラ社はどうか、偕成社はどうか、知らないんじゃないだろうか。

出版社ごとの傾向というのはけっこうある。絵本を読むとき出版社名を意識するようにすればだんだんわかってくるはずだ。持込みするなら知っておくに越したことはない。
「うちの絵本でお好きなものは?」と訊かれることだってある。そこでタイトルがひとつもあがらないのは恥ずかしい。

絵本作家を目指すなら絵本を読みましょう。

持込みについてはこの本で詳しく書いています。ほかにコンテストのこと、勉強法のこと、著作権やお金の話も。『プロの絵本作り~本気で絵本作家を目指す人に~』

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