絵本コンテストの選考でどこを見るか。構成力と発想力。『はにわくん』まつながもえ・さく

「はにわくん」まつながもえ 絵本塾出版

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『はにわくん』まつながもえ・さく 絵本塾出版

絵本塾カレッジ創作絵本コンクールの選考過程

『はにわくん』は、ぼくが審査員を務めている絵本塾カレッジ創作絵本コンクールの第3回大賞作品です。2021年9月に出版されました。
絵本賞にもいろいろあるし、審査員もそれぞれの考えを持っているから、ひとくくりに「選考過程はこういうものだ」とは言えません。
絵本塾カレッジ創作絵本コンクールでは、基本的に全審査員が全応募作品を見てそれぞれ採点し(1次選考)、そののち集まって最終選考会となります。応募数が多いときは最終の前に2次選考が必要になる場合もあります。

ぼくの場合、1次選考はまず一読者の視点で、つまりふつうに絵本を楽しむときと同じ気持ちで全作品を読み、次の選考に残したいもの、残さないもの、残すかどうか迷うものに分けます。
それから、残したい作品と、残すか迷う作品を「どんな長所があり、どんな欠点があるか」という視点で再読していきます。その長所・欠点がどの程度のものかも考えます。
推薦したい作品10点ほどを選び、点数をつけ、長所・欠点を書き添えて最終選考会にのぞみます。

ぼくの経験から言うと、初めから全員が同じ作品を1位に推すことはまずありません。だいたい票が割れます。そこでチェックしておいた「長所・欠点」が役に立ちます。
単に「この作品がいちばんいい」と主張しても他の審査員から「自分はこっちの方がいいと思う」と言われたら話が進まないでしょう。具体的に「こういう長所がある」とアピールしあってこそ互いの考えがわかってきます。

他の方の意見を聞いているうちに自分の中の評価が変わっていくこともあり、初めはバラバラでまとまりそうになかった最終選考会も最後は全員納得の形で受賞作が決まることが多いです。
『はにわくん』も例外ではありませんでした。初めは全員一致ではなかったけれど、真剣に話し合っていくうち「やっぱりこれがいちばん!」にたどりついたのです。

ある小学校に「はにわくん」が転校してきます。本物の埴輪は古代日本で作られた素焼き土器ですが、現代に現れたはにわくんは動いてしゃべれるキャラクターです。
はにわくんは人間ではないから、みんなと授業を受けていても、まあいろいろと違うわけで、そこがユーモラスに描かれていきます。
ちょうど真ん中あたりで起承転結の「転」にあたることが起こり、ペースが上がって一気にラストまでなだれ込みます。
読み終わってみると、はっきりとは語られなかった「はにわくんが転校してきた理由」がうっすらわかり、最初のページをもう一度見てみたくなるようにできています。

発想力にまぐれあり。構成力にまぐれなし。

選考の際ぼくがいちばん評価したのは、はにわという珍しいものをメインにして、はにわらしさを生かしたストーリーを作った構成力でした。1冊をトータルに考えて、15見開きを効果的に組み立てているのが感じられました。
いい題材を見つけてくるのは発想力で、これはまぐれもあります。たまたまいいアイデアがひらめいただけで続かないこともあります。しかし題材をどう生かすかという構成力にはまぐれはありません。
料理における素材と調理法みたいなものです。素材はいいものが入ることも入らないこともありますが、調理法はしっかり身についていればいつでも使えます。
構成力に優れたまつながもえさんは、今後もたくさんの絵本を作っていける人だと感じました。

絵本コンテストの審査は応募された作品を評価するものです。しかし新人発掘を目的とする賞ならば、将来性も視野に入ってくるのは当然でしょう。できれば1作だけでなく作り続けてほしいのです。
審査員としては受賞者がその後活躍してくれるほど嬉しいことはありません。賞の価値は歴史や賞金額にもありますが、何よりも過去の受賞者が活躍しているかどうかでしょう。

まつながもえさんは、絵本塾カレッジ創作絵本コンクール大賞(2020年)に続き、2021年春には第22回ピンポイント絵本コンペで入選、年末には第10回MOE創作絵本グランプリでグランプリと、順調すぎるほどの成果をあげています。
数年後には絵本好きなら誰でも知っている人気作家になっているのではないでしょうか。
大いに期待しています!

(by 風木一人)


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