似たところのある作品として、『サルビルサ』(架空社)とどちらを取り上げるか迷いました。『サルビルサ』の方が堂々たる傑作かなと思いつつ、わけあってこちらをチョイス。
「となりのトトロ」の猫バスはスゴかったですよね。でもウシバスだって負けてはいません。
ストーリーは単純そのもの。ウシバスが停留所で六人のお客さんを背中に乗せ、次の停留所まで行くというだけの話です。
見ものはウシバスの爆走ぶり。土けむりを上げ、池に突入し、次々お客を振り落とし、停留所に着いたときにはもう誰も乗っていない!
ほら、迫力では猫バスに負けていないでしょう? 乗り物としての性能では負けてますけどね。まあ誰もお金を払っていた様子はなかったし、いいのではないでしょうか。
それにウシバスに悪気はないのです。表情を見ればわかります。職務遂行のため一生懸命なだけ。最後、背中に誰も乗っていないのに気がつき、けげんな表情のウシバスは、おかしいような、気の毒なような。とにかく笑える絵本です。
『サルビルサ』との共通点は、意味のある言葉がほとんど使われていないこと。日本語と受け取れるのは「クル?」と「ウシバス」くらいです。あとは「ウバシス」とか「シスバウ」とか、「ウシバス」を並べ替えた音のみ。それがいかに効果的であるかはご覧になっていただくしかないでしょう。
見返し(表紙のウラ)を見ると、十一匹の牛の顔が描かれています。中には一つ目の牛など相当奇妙なのもいます。これがウシバス株式会社で働いているウシたちだとすると、絵本に出てきたウシバスは、あれでもまともな方だったのかも……。
(by 風木一人)
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