差別と憎しみのない世界とバベルの塔

バベルの塔の話というのは、聖書の物語の中でも有名なものの一つだろう。
豊かになり、高い技術力を身につけた人間たちは、天に届く塔を立てようと計画する。人々は協力し、見る間に塔の建設を進める。しかし、天に届く塔を建てるなどという大それた行いに、神は怒った。神は人々の言葉を互いに通じなくし、そのため建設作業は混乱を極め、人々は塔を建てることを諦めた。

天に届く塔を建てることが、何故いけないのだろうか。それは、人間が天という神の領域に昇り、神と同じになろうとする試みだからだろう。人間は自分が神ではなく不完全な存在であることを認め、謙虚でいなければならない。
しかし、人間は進歩を求めるものである。火や石器の使用に始まり、様々な道具を発達させ、暦を作り、現代に至るまで科学技術の進歩は続いている。進歩したのは技術だけではない。技術の進歩に伴って、社会も進歩してきた。小さな集団で狩猟採集をしていた生活から、大集団での農耕が始まり、分業が起こり、国家が成立し、官僚制度や法律が整備された。技術の進歩が国家のような大きな社会組織を成立させたのか、大きな社会が技術を進歩させたのか。おそらく両方なのだろう。

20世紀後半に入り、第2次世界大戦という、科学技術の粋を集め大国が全力を挙げた凄まじい殺し合いを経て、人類の多くは本気で平和を希求するようになった。世界平和を実現するためには、技術や社会制度だけでなく倫理も進歩させ、国家間、民族間の差別と憎悪を無くさなければならない。そして、それは少なくとも部分的には成功した、あるいは成功に向かっているように見えた。我々は、お互いの違いを認め合い、尊重し合える。差別をなくし、憎しみを乗り越えられる。世界は一つ。Love and peace!

そして21世紀。「分断」「自国第一主義」と言った言葉が、国際政治、国内政治を説明する重要なキーワードとなっている。人々は分裂し、主義主張の異なる人たちの間では、言葉さえ通じなくなっているように見える。
「世界は一つ」という高い理想に到達しよう、到達できると考えた途端に、「言葉の通じない状態」が現れて、理想世界の建設は頓挫したようにも見える。まるでバベルの塔のように。

(by みやち)

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