年末魔談「クリスマス・キャロル」(1)

【 クリスマス・キャロル 】

本日は11月25日(金)。クリスマスまで1ヶ月。わたくしは岐阜県の山奥に住んでおりますので、最近は街を彩るクリスマスツリーなどとんと見ない生活だが、気の早い街の商店街ではそろそろ夜になるとクリスマスツリーが輝き始める時期だろうか。

さて激動の2022年もいよいよ暮れに迫ってきた。この時期に新しい魔談を開始するにあたり、なにをモチーフに語るべきか。あれこれ楽しんで模索した。自宅の貧弱な本棚の前を行ったり来たりで、ない知恵をなんとか搾り出そうとしたところ、まだまだ私には悪運ならぬ魔運が尽きないと見えて、ある本の背表紙にふと視線が止まった。
「クリスマス・キャロル」
おおっ、これこそは年末魔談でとりあげるにふさわしいブラックユーモア溢れる名作ではないかということで、今回から6回に渡り、12月30日(金)まで「クリスマス・キャロル」を大いに語ろうと思う。

……と言いつつじつは魔談ですでに一度、「クリスマス・キャロル」を語っている。
かれこれ1年と10ヶ月前のことになるのだが、2021年1月29日の魔談「魔の音」では「クリスマス・キャロル」を取り上げた。この時は「音」にこだわって「この音こそ、世にも恐ろしい〈魔の音〉である」という話の引き合いで「クリスマス・キャロル」をもってきたのだ。
「えっ?……魔の音って、どんな音?」と興味をもった方はぜひこの魔談を読んでいただきたい。ここでは「クリスマス・キャロル」冒頭で、主人公の前に亡霊が現れるシーンを熱く語っている。

さて今回。さらに深くこの名作を追求し、加えてDVD映画を2本、比較しながら紹介していきたい。そう。「クリスマス・キャロル」DVDは2本あるのだ。

「クリスマス・キャロル」ミュージカル映画(1970年イギリス)
「クリスマス・キャロル」ディズニー映画(2009年アメリカ)

この2本の映画にはざっと40年の歳月の隔たりがあるのだが、双方共に、じつに素晴らしい出来の映画だと私は思っている。英国版ミュージカルもいいし、ディズニー版の「この上なく実写に近い最先端アニメ」もじつにすばらしい。……というわけで、この年末は「ちっとも怖くない児童文学魔談」にどうかおつきあいいただきたい。

【 ディケンズ 】

さて初回。原作者チャールズ・ディケンズ(1812~1870)について簡単な説明をしておきたい。

ディケンズの父は海軍関係の役所に勤めていたのだが、なにかの理由でクビになった。ディケンズ9歳の時のことである。
ディケンズの少年時代は暗転。父は莫大な借金をはらうことができず、なんと家族で監獄に移り住むことに。当時の英国には極貧で借金を払えない家族を強制的に住まわせる監獄があったのだ。彼はそのような家庭の事情で、小学校もまともに卒業できなかった。しかし独学を続け、なんと22歳で新聞記者になる。その時期から小説を書き始めた。

この「極貧&借金未払い家族をぶちこむ監獄」というおぞましい建物の存在。これこそがディケンズが生きた時代の「英国社会の闇」を見事に象徴しているように思う。早い話が産業革命による明暗、つまり貧富の差である。

それまでは人が作っていたものが、機械が作るようになった。それまでは自分の家でやっていた仕事がなくなり、機械を備えた大工場に雇われて大量生産するようになった。そういう時代だ。工場を経営する大金持ち、工場に雇われる労働者、2つの階級が社会に生まれた。貧富の差がますます増大し、利益主義が横行した。そういう時代である。

「クリスマス・キャロル」をはじめディケンズの小説には、貧しい人々、またそのような環境でも健気に生きようとする子どもたちが数多く登場する。彼自身の辛く悲しい少年時代を踏み台にして、逆境に生きようとする少年少女に深く同情した物語を生み出してきたのだ。

彼は人がすっかり寝静まった真夜中のロンドンを20kmも30kmも歩き回って、「クリスマス・キャロル」の構想を練った。そこに登場する貧しい家庭のシーンを思い浮かべる時は、涙を流しながら歩いた。……と聞けばこの名作をこよなく愛する者にとっては「あ、あのシーンだな」とすぐにわかるシーンがある。

私はVHSビデオ版「クリスマス・キャロル」(1970)を買って何度も楽しみ、ビデオテープがとうとう劣化してしまったのでDVD版「クリスマス・キャロル」(1970)を買い、「ディズニーがクリスマス・キャロルをつくった」と聞いて「あのシーンはどのように表現しているのか」と期待してディズニー版「クリスマス・キャロル」(2009)を買った。なにしろディズニーである。「まあ泣かしてくれるのだろうな」と期待しながらネットで買い、ワクワクしながらその到着を待ったものである。

さて次回からこの物語を語りたい。物語の冒頭で主人公をののしる亡霊の登場、というじつに魅力的なシーンからこのお話は始まる。

 つづく 


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