エドガー・アラン・ポー 6【モルグ街の殺人 1】

【 推理小説誕生 】

今回からポーの作品についてあれこれ述べてみたい。とはいえ、それは評論ではない。私には有名小説の評論を書くほどの技量はない。まあ「極めて個人的な」と前置きをした上での作品紹介と感想、そんなところだろうか。

さて「ポーの代表作は?」ということになると、これはもうじつに様々な意見が出てくるだろう。私がその最初に「モルグ街の殺人」を持って来た理由、それは単にこの短編小説が「面白いから」「好きだから」「結末にあっと驚くから」といった理由だけではない。この小説が「世界初の推理小説」と言われていることが頭に浮かんだからだ。なにしろ「世界初」なのだから、ポーがこの小説を書く以前にはこういうスタイルの小説はどこにもなかったということになる。

しかもそれだけではない。この「モルグ街の殺人」が世に出てからというもの、この小説のスタイルに心酔したからこそ、コナン・ドイルはシャーロック・ホームズを生み出した。アガサ・クリスティはエルキュール・ポアロを生み出し「ミステリの女王」と称されるほどの作家となった。ポーがいなかったら、ホームズもポアロもいなかったのだ。

そこで「モルグ街の殺人」。前述した「この小説のスタイル」とはどういうスタイルなのか。

(1)密室で起こった奇怪な殺人事件。
……なにはともあれ事件が起こらないことには、話は始まらない。事件発生が「起」である。単なる殺人事件では面白くない。「謎」があり「奇怪」がなくてはならない。

(2)只者ではない推理を働かせる男が登場。
……さてここで役者の登場とあいなる。「承」である。その男の推理が話をどんどん進めていく。ここが推理小説のコアだ。単に「推理を働かせる」程度のことでは、読者は感心しない。「すごい着眼点だな」とか「すごい洞察力だな」と読者を唸らせるほどの推理をツルッと言えるような男でなくてはならない。ここが最も難しいところだ。作家の腕の見せ所ということになろうか。超人的な推理力をさりげなく披露しつつ、人間的な魅力も兼ね備えているような憎い男でなくてはならない。いかにすばらしい推理力を持っていたとしても、AI搭載人形ではこの役は務まらない。ホラー映画の主役(AI搭載少女人形)なら務まりますな(笑)。いや「少女人形だからこそ務まる」と言うべきか。

(3)あっと驚く意外な犯人。
……「転」である。「うわっ、そうだったのか!」と読者が納得し感服して「結」。

この「事件・探偵・犯人」という3拍子、それぞれが一癖も二癖もあるこの3拍子が揃ってこその小説が、いわゆる「探偵小説」ということになる。「推理小説」という言葉が好きな人にとっては、探偵の活躍もさることながら「探偵がかっこいい」「意外な犯人」だけでは話にならない。話になってしまっているテレビドラマもあるようだが、そんなレベルのものはさておき、「推理小説」の醍醐味とは「推理の経過を魅力的に示す」ということではないかと思う。
そこでこの「モルグ街の殺人」で活躍する必殺推理人とは、どういう男なのか。そこを見ていきたい。

【 デュパン登場 】

さてこの小説に出てくる私、つまり「語り手」はモンマルトル街の図書館でオーギュスト・デュパンと知り合いになる。そう、この小説の舞台はパリなのだ。

この時期(この小説を、ポーが編集者として加わっている雑誌で発表した時期)、ポーはニューヨークで雑誌編集者として大いに活躍していた。なぜ小説の舞台をパリに選んだのだろう。ひとつには「殺人事件の舞台」をアメリカの街にすると、なにかと面倒くさい評判や評論がドッと押し寄せてくると予想したのかもしれない。なにしろポー自身が辛口の文学評論をガンガン発信していた時期である。自分の作品をポーに散々叩かれてムカついていた文学者は山ほどいたに違いない。

さてデュパン。どんな男か。
・若い紳士。
・没落した名家の出身。
・親ゆずりの財産で貧乏生活。
・書物をこよなく愛す。
・同じ稀覯本を探していたことから「私」と知り合う。

……という男なのだが、ここに出てくる「稀覯本/きこうぼん」とはなにか。次回はそのあたりから語りたい。

【 つづく 】


電子書籍『魔談特選2』を刊行しました。著者自身のチョイスによる5エピソードに加筆修正した完全版。専用端末の他、パソコンやスマホでもお読みいただけます。既刊『魔談特選1』とともに世界13か国のamazonで独占発売中!

 

スポンサーリンク

フォローする