電線

・・電線

安い葡萄をむいたら指先の傷にしみた
などという記憶が不意によみがえる
ほかに思い出もなくて

むきだしのからだをかまいたちにさらしても血しぶきはあがらない
だらっと生臭いものがこぼれるだけで量も少なめ
かなしいね? あ、はい

太陽タイプ月タイプと分類してみても
自分をたとえる対象が唯一無二の天体だというのがおこがましい
夜空には数え切れない星が見えるが
見えない星は遥かにたくさんあるはず
そのどれをとっても僕より重い

では何にたとえれば的確かという問いに答えようとして
頭に浮かんだことごとくが可哀相になる
それほどみすぼらしい自分がまたあわれだが
哀れんでくれるのも僕だけなんだろう?

根性 礼儀 知性
美貌 才能 勇気
体力 愛嬌 エトセトラ
長所の項目は多々ありながら
いずれを見ても自負するに足りない

だれもいないことを確認してから
いい気で歌う
おだてられてもいないのに
感動的に
かっこよく

偽物さ
指ささないでくれ
わかっているんだ
ひとときの……
夢といっては夢に失礼な
ひとときだ

本当はよろこばせてみたいのだ
そのすべのありかをしらない
どこかにはあるのか

月夜
冷え冷えと月夜
まちじゅうの電線をくぐりぬける役立たず一匹
さして毛深くもなくて


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