異色の俳優、異色の内容。「エゴイスト」「茶飲友達」、そして秀作テレビドラマ「エルピス」

2月に公開されて気になっていて、やっと見たのが鈴木亮平主演の「エゴイスト」である。

監督:松永大司 出演:鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子ほか

監督:松永大司 出演:鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子ほか

高級マンションで独身の生活を送るファッション雑誌編集者の浩輔(鈴木亮平)はトレーニングジムで龍太(宮沢氷魚)と知り合いやがて愛し合うようになる。龍太の家は貧しく、中卒で働いており母親と二人暮らしだ。

前半は、二人が肉体で愛しあう姿もかなり過激に描写され(R15指定)、カメラが人物にかなり寄りのアップが多く、やや窮屈な感じを受け、今ひとつ乗れないのだが、映画の中盤に龍太の母親が登場するや、映画に生彩が生じる。
その母親を演じているのは、誰あろう、ベストセラー「聞く力」などの著書がある阿川佐和子だ。親子は安アパートに暮らしているが、二人が浩輔を家に呼び、初めて会うシーンからとてもいいのだ。

鈴木も宮沢も身長が180センチを超えていて、小柄な阿川は「巨人の国の小人」みたいな感じだが、化粧っ気なしで、生活感漂う庶民の初老のおばさんの雰囲気を余すところなく出していて、映画をぐっとリアルなものにし、それからの映画の有りようを変えてしまう。
阿川は特に「演じている」感はない。しかし、話し方・表情・体の動きで存在感抜群。これも、演技経験のなかった者から「地の存在感」を引き出す監督の「演出力」なのだろうか。我々映画ファンの中では、今年の「助演女優賞」に決定ではないかという声も出ている位。

さて、この映画の物語だが、阿川の登場によって、「男と男」の恋愛映画から、やがて「愛すること全般」の映画へ変わって行く。そこがいい。
宮沢も好演だし、主役の鈴木は、前半の「おねえ演技」にはちょっと違和感があるが、後半の演技には繊細さが伝わってくる。

監督:外山文治 出演:岡本玲 磯西真喜 海沼未羽ほか

監督:外山文治 出演:岡本玲 磯西真喜 海沼未羽ほか

次は「茶飲友達」。老婆が自分の胸に手を触れさせているチラシは、これは何だろうと思わせる。高齢者の出張売春を描くという映画だと聞いて、正直スケベな気持ちを抱いて見に行ったら、真面目な社会派のドラマになっていた。

10年前埼玉県で起きた事件に基づいている。孤独な高齢の男性の元に「茶飲友達」と称して、これまた65歳以上の女性が派遣される。コースが幾つかあり、単にお話をするだけというものも、性のお相手をするものもある。10年前だからか、男性がネットでなく新聞の三行広告でその存在を知るのがリアル。

最初は違和感を抱く。事務所が浅草にある組織を運営しているのが20代らしい若者たちであり、この映画の内容との距離感がなかなか掴めないのだ。しかし、登場する老人の性と生がテーマになっていくし、次に若者の生も浮かび上がってくる。そこがいい。
運営するメンバーの人生が判ってくる。皆、それぞれに問題を抱えて生きている。例えばオーナーの女性(岡本怜)は母親と上手く行っていない。運転を担当する若者は、父親が長年続けていたパン屋を閉店してしまったばかりだ。妻子ある男の子を宿した女性もいる。
物語の進行につれて若者が成長していく、また、厳しい状況が改善されていくのがいい。

現実としては、この組織は売春組織として摘発されている。作り手は、この組織について、安易に賛同も批判もしていないスタンスだ。どう判断するかは、観客に委ねられている。世の中には心の安らぎを得られない孤独な高齢者が多数存在するだろう。私自身は、一線を越えないなら、こんな組織があってもいいじゃないかと思うが、少数意見か。

この映画でも脇の俳優が皆いい。存在感がある。岡本玲など、何人かはプロを使っているが、多くが無名の「ENBUゼミナール」という学校で指導を受けた人たちばかりである。これがこの映画のリアルさに繋がっている。

さて、昨年秋に放送されたテレビドラマだが、「エルピス」という素晴らしい作品がある。
テレビ局の深夜娯楽番組のキャスター(長澤まさみ)と新人ディレクター(眞栄田郷敦)が、死刑判決を受けた死刑囚の無実を訴えるため、硬派の報道レポートを作って追及していく話だ。
長澤まさみの恋人が同じテレビ局の鈴木亮平で、現実主義者だが理想を秘めた役を好演した。また、眞栄田郷敦(まえだごうどん、と読む)も、ちょっといい加減で頼りない人物を好演したが、彼は何と千葉真一の息子である。彼の新鮮さもいい。
字数が足らず十分に内容を伝えられないが、大きな話題を呼んだ秀作。脚本は実力派の渡辺あや。必見だと思う。

(by 新村豊三)

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