NHKの朝ドラ「ブギウギ」が好調だ。戦後の大歌手笠置シズ子をモデルに福来スズ子のドラマが展開していく。スズ子を演じる趣里が、水谷豊と伊藤蘭の愛娘であるのにはビックリだ。表情も豊かだし演技力がある。
脚本を書いている足立紳は、実は、映画のシナリオを多数書き、映画監督もやっている人なのだ。これまで、朝ドラで映画監督が脚本を執筆するというのは無かったのではないか。監督であるからこそ、脚本を書く時も、画面構成、演技指導、予算面(?)などなど諸々の面で、どうしたら演出しやすいかどうかという意識を持って、脚本を書いているのではなかろうか。
彼の作品を紹介したい。今年3月に公開されて日本映画ファンが大いに楽しんだ秀作が「雑魚どもよ、大志を抱け!」。
1988年、昭和の終わりの前年、飛騨高山の小学6年生の男の子達の物語である。主要な男の子たちが7人出てくるが、個性豊かでキャラが立っている。
それほど大きな事件が起きる訳でなく、ラストは、主役の舜と親友の隆造の別れという定番である。しかし、これほど、笑いと共に子供が、しかもそれぞれの問題を背負った子供たちが、映画の中で生き生きと描かれた映画はないのではないか。
私が、男子中学高校のセンセイをやっているからだろうか、いろいろと生徒たちを見てきて、本当に映画で出てきたような少年がいるのである。特に印象的なのはトカゲというあだ名の子。小さく痩せて、アトピーがあっていつも体をポリポリかいていて、どもりもある。母ちゃんは、宗教にハマり過ぎ。このトカゲが一番切なく、心ひかれた。
また、やっぱり母ちゃんいなくてゲームばっかりやっている理論家の少年正太郎。
金持ちの映画好き西野。彼は髪の毛長くて、ユニセクシュアルで、もの静かな雰囲気だ。そう言えば、教えた生徒の中に、20年くらい前女装したいと言った中学生もいたなあ。当時まだLGBTの考えが広まっていなかった。本人も悩んだだろう。女装させりゃよかったなあ。
映画は、ほんとうに、リアルというか、存在感のある子どもを描いてくれた。ああ、みんな、いろんなものを背負って生きているなあと思う。
脚本家として足立紳の名を知ったのは安藤サクラ主演の「百円の恋」(2014)だ。この映画は、2017.7.10の回で既に紹介している。
脚本・監督で一番高く評価されたのは2020年の「喜劇 愛妻物語」。売れない脚本家がいて、完全に家で奥さんの尻に敷かれている。やりたいセックスもやらせてもらえない。主役は小柄な濱田岳、それに対し、体も大きく、毒舌を吐き、元気が良過ぎる奥さん役を水川あさみが演じて、キネ旬の主演女優賞を獲得した。そう、「ブギウギ」のヒロインの母親役をやった人である。私は、正直言うと、気弱なもので(?)、このヒロインは苦手であったが。
好きな映画をもう一本! 趣里が主演の一人を演じているのが、現在公開中のベテラン監督塚本晋也の「ほかげ」だ。塚本は2014年に「野火」を撮り、人肉食いやジャングルの放浪など、戦場の極限状況を描いた。私も素晴らしいと思ったが、その年のキネ旬2位という高い評価だった。
さて、今度の映画は、終戦直後の混乱を生きる若い一人の女と一人の男、そして二人に関係する戦争孤児の少年の物語だ。
前半は、闇市の飲み屋らしき汚い店で若い女(趣里)が、体を売って生活する様子が描かれる。画面は暗く、人々が蠢(うごめ)いている。カメラはほとんど外に出ず、閉鎖的で、ストーリーの展開に乏しく正直退屈だ。趣里は、「ブギウギ」で見せる関西人らしい明るさは微塵もない、暗くシリアスな演技をしていて存在感がある。「ブギウギ」とは全く違う演技だが、驚きはない。「ブギウギ」で分かるように、全身で演技できる、何でもこなせる達者な俳優なのだと思う。
注目すべきは後半だ。戦争による負傷のせいだろう右腕が不自由な若い男森山未來が登場すると映画の雰囲気が一変する。彼は、地方の元上官の家を訪ね、少年を使って外に呼び出し、ある行動を取る。
その、復員兵森山の執念には心動かされた。それは取りも直さず作り手であるシナリオも書いている塚本晋也の戦争にこだわる姿勢だ。戦争の理不尽さを忘れてはならぬ、戦場でやったことを忘れてはならぬという思想だ。
闇市が、美術的に大変によく作り込まれていることも付け加えておきたい。
(by 新村豊三)