韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の一連の問題を見ていると、人間としての彼女に同情を禁じ得ない。最高権力を握っても心の中は孤独で悲哀の中にいるのだろう。最近の憔悴の表情を見ると、シンドい、もう職を放棄したいと思っているのではないか。
父親朴正煕(パク・チョンヒ)は韓国の偉大な大統領で60年代世界の最貧国の一つと言われた韓国を先進国へと発展させた(一方で、独裁を行い人権弾圧を行ったのは周知の事実だ)。彼女が22歳の時母親は芝居の観劇中流れ弾に当たり亡くなり、27歳の時父親も側近に暗殺され非業の死を遂げる。
パク・クネは、西江大と言う日本の上智大に相当する大学の出身だ。相当に優秀な成績だった由。そんな学級肌の彼女は本当に政治家になりたかったのか。実は、祭り上げて大統領にされ、絶大な権力の甘い汁を吸いたい輩に利用されたのではないか。
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10年前ソウルで一年間韓国映画の研究(?)をしていた頃、自分が住んでいるアパートのすぐ近くの現代デパート前で遊説している最中に彼女は暴漢に切りつけられ顔に傷を負った(自分はその同じ時、部屋でシコシコ?韓国語の勉強をしていたのであるが)。
政治的に考えの合わない相手に対し顔を切りつけるという犯人の発想にも驚くが、それを許してしまう警備のダラシナサさ、大雑把さに韓国らしさを感じる一件だった。
負傷したパク・クネの看病をしたのが、一連の問題で指弾されているチェ・スンシルの家族だったというのが凄い。妹弟とは上手く行っていないのだ!
結婚もしていない彼女の孤独は際限ないのではないか。
因みに、事件の場所は新村(シンチョン)という日本の池袋みたいな所。慶応にあたる延世大、西江大、そして梨花女子大がある大都会であり、時代錯誤の田舎ではないのだ。
パク・チョンヒが登場する映画に「大統領の理髪師」という、大統領の散髪を専属で行う男の家族を描いた作品がある。パクがモデルの大統領は清廉潔白の人と言う風に描かれていた。
また「ユゴ大統領有故」という映画があり、79年10月26の大統領の暗殺の日を描いている。こちらは、若い女の歌手を侍らせ酒を飲んでいる時に暗殺されてしまう大統領の姿だ。
映画としては後者の方が好きだ。日本公開時そんなに話題にならなかったが、「8月のクリスマス」等で落ち着いたジェントルマンのイメージで知られるハン・ソッキュの、非常にテンション高い弾けた演技が面白い。
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さて、好きな映画をもう一本。現在公開中の「弁護人」は娯楽と社会性を兼ね備えた骨太の力作。2代前の大統領盧武鉉(ノ・ムヒョン)の若い頃をモデルにし、高卒で弁護士になり金を稼ぐだけだった主人公が、苦学した頃恩を受けた食堂のおばさんの息子の大学生が国家保安法容疑で不当逮捕されたため、彼の弁護士として闘うようになる。
法廷の裁判シーンがなかなかいい。民主化前の80年代の本当に酷くて恐ろしい人権無視の拷問を描いた映画はかなり見て来たが、裁判において体制側の検察や裁判長や敵である釜山の警察の理不尽さに対し、言葉と論理で激しく闘う映画は初めて見たように思う。
主役のソン・ガンホが証人の警察の警監に対して、愛国とは何かと問い、お前の言う国家とは一部の軍人だ、と言い切る姿は圧倒的だ。
主人公はその後、民主化運動の先頭に立ち(軍人出身の大統領チョン・ドファンの時代だ)、デモを扇動したと起訴され今度は自分が被告の席に座ることになるが、その裁判の冒頭になる、ラストシーンの美しさには胸熱くなった。
ソン・ガンホは表情に凄みと和みがある韓国トップの男優だ。映画は韓国で広く支持され14年に観客動員の歴代6位を記録した。
※「弁護人」画像は公式サイトより
(by 新村豊三)