最近これほど上映を心待ちしていた作品もない。アメリカのミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」である。その理由は自分がミュージカル映画好きであることと、2年前「セッション」という映画で映画ファンの度肝を抜いた俊英監督デイミアン・チャゼルの新作だからだ。
まず、「セッション」について述べると、ドラムが専攻でニューヨークの音楽学校(名門ジュリアード音楽院がモデル)に入学した学生が鬼のような指導教官から過酷苛烈な指導を受ける映画である。
演奏が上手く行かない時の言葉による悪態・悪口が半端ない。いじめ、パワハラそのものではないかと思う。もう人格無視、しかも汚らしい四文字言葉を連発する。スゲえとしか言いようがなかった。
英語でどう言っているかに関心があり、ネットでシナリオを検索し全部チェックしてみたが“fuckやfucking”を含んだ表現を含めて確か74箇所「罵りの言葉」が出ていた。
幾つか紹介しよう。
Jesus fucking Christ–I didn’t know they allowed retards into Shaffer!
(何てこった。よくもお前みたいな低能児をこの学校に入れたもんだ)
It is no fucking wonder Mommy ran out on you, you worthless acne-scarred fetal-positon Hymie fuck.
(お前の母ちゃんがお前を置いて家を出たのも当然だな、この役立たずのアバタでネンネのユダ公野郎め)
いやはや何とも。これをスキンヘッドの、神経図太そうな、目もギョロッとして鼻の穴もでかい J.Kシモンズが言うからまたいいのだ。彼はこの作品でアカデミー助演男優賞を受賞している。
そしてこの作品が素晴らしいのは生徒が教師からいじめの様な指導を受け続けるだけの映画、あるいはその冷酷な指導には隠れた愛情があったというようなこれまで見てきたような映画に着地しないところだ。内容に触れるから詳しく書かぬが、生徒が驚くべき形で反撃を加え出すのだ。そこがこの映画の最大の見どころだ。監督はハーバードの学生時代自らジャズ・ドラムを練習していたという。
さて、「ラ・ラ・ランド」は、「雨に唄えば」などの50年代アメリカミュージカル映画にオマージュを捧げて、映画の「愛と夢の復権」を目指し、かつ、21世紀の現代の厳しい現実も取り入れ、いつの世も変わらぬ愛の物語を骨格とした素晴らしい映画であった。
特に前半のロスの高台で主人公2人が踊るシーン、天文台で宙に舞い上がり踊るシーンにはワクワクうっとりした位だ。そして、オーディションでヒロインのエマ・ストーンが、パリに住んで演劇好きだった亡き叔母を語るシーン(途中から唄となる)には心動かされるものがあった。
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さて、好きな映画をもう一本、50 年代ミュージカル映画の傑作「雨に唄えば」だ。
この映画は大好きで大好きで、実は生涯見た映画のマイベストテンに入っている位だ。1920年代アメリカ映画がトーキーに切り替わる時代、そのトーキー映画の製作を巡るストーリーだ。この映画を30数年前に池袋の劇場で見たときの興奮は忘れられない。理屈抜きに楽しくのびやかで映画の映画たる魅力に輝き、嬉しくて欣喜雀躍した。
見所が沢山あるが、主役のジーン・ケリーが雨の中を傘を振り回しながらダイナミックかつ優雅に踊るシーンが最高だろう。その時 What a glorious feeling, I’m happy again と唄われる曲も一度聴いたら忘れられない素敵なメロディだ。
家の中を主役の3人が踊り動きまくるナンバーもよかった。ジーン・ケリーの恋人役だったデビー・レイノルズも可愛い。彼女は「スターウォーズ」のレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーのお母さんだ。昨年、娘が亡くなった翌日に本人もショック死で84歳で亡くなっている。合掌。
(by 新村豊三)