深田晃司監督の新作「よこがお」と俳優須藤蓮の出演作「最後の審判」

「歓待」「ほとりの朔子」など好きな作品が幾つもある若手の実力派監督深田晃司の新作「よこがお」を先行上映会で見ることが出来た。監督に加えて5人の主要な俳優の舞台挨拶があるからか、テアトル新宿での上映会は、ネットによる販売開始数時間でチケット完売だったそうだ。時間は夕刻だったが、9割が女性客であった。

映画「よこがお」

監督:深田晃司 出演:筒井真理子 市川実日子 須藤蓮ほか

外国の原作があるようだが、この作品も監督自らがシナリオを書いている。介護サービス業に従事する中年独身のヒロインは、自分の身内が犯罪を行ったため、自分も社会的バッシングを受けてしまう。まさかの人からも裏切り行為を受け、そのために復讐を行おうとする、というストーリーだ。
このヒロインを実力派の筒井真理子が演じる。彼女は監督の2作前の「淵に立つ」で主役を務め、この作品が出世作となっている。彼女の介護先の家の親しい孫娘が市川実日子、その恋人が池松壮亮だ。

映画的に印象深いシーンやショットがある。ワンワンと犬の鳴きまねをして、筒井は朝の街を裸足でよつんばいになって這って行く。これには驚く。もうひとつ、書いてしまうが、押し入れの中で彼女が全裸で若い男と抱き合う意表を突くショットも登場する。
しかし、全体の感想を言うと、予備知識ゼロで見たせいか、ところどころ、ストーリーの繋がりに疑問を持ってしまうところがあり、物語がスーと頭に入って行かなかった憾みが残った。皆さんはどうご覧になるだろうか。

さて、今回詳しく書きたいのは、ヒロイン筒井の甥っ子を演じた須藤蓮についてだ。実は彼は高3の時、授業で教えた生徒なのだ。
大学在学中に渋谷でモデルの事務所にスカウトされ、NHKの地域発単発ドラマのオーディションで主役の座を射止め、その後映画にも出演するようになったのだ。
須藤君と呼ぼう。須藤君は「よこがお」では可もなく不可もなくといったところだが、映画界で十分にやっていけるだろう。もちろん台詞もある。

実は彼が出た30分の短編映画があり、この映画と彼の演技は掛け値なしに素晴らしい。NDJCという、文化庁が若手の映画人にお金を出して短編映画を撮らせる活動がある。もう15年ほど続いており、今年も5本が製作され、彼が出演した「最後の審判」はそのうちの一本だ。既に東京では有楽町スバル座で公開された。

最後の審判

監督:川上信也 出演:須藤蓮 永瀬未留

これは、浪人を5年もやっている芸大受験生の受験の一日を描いた作品だ。須藤君は主役の受験生。試験会場には現役の女の子がいるが、試験科目であるデッサンを行う中で、彼女の人並み外れた才能をすぐに見て取ってしまう。言わば女の子はモーツァルトで、浪人の若者はサリエリだ。短編ながら、この受験生と女の子の関りを、スピーディかつ映画的に豊かに描き出しており感心してしまう。
須藤君は、焦りながらも、優秀な才能に出会って彼女をもっと知りたいと思う受験生の心情をうまく出しているのだ。これは秀作で、ほとんどの人に知られていないのは残念至極である。どこかで見てやってください!

さて、好きなテレビドラマを一本だけ!

須藤君がNHKで出たドラマは2018年夏に放映の「ワンダーウォール」という作品。大学の学生寮が学校側から取り壊されそうになり(京大がモデル)それに寮生が反対活動を行っているが、須藤君はその反対する寮生の一人を演じている。秀作映画「ジョゼと虎と魚たち」や「天然コケッコー」を執筆した渡辺あやがシナリオを書いている。
だからからか、人物たちの台詞が自然であるしストーリーも巧みに作られている。夜、寮生と卒業生でもある派遣の学生課の女性職員が話しあうシーン、その後、5人の寮生が、風流にもお茶を立てながら朝を迎えるシーンがとても良かった。全く素人だった須藤君は演劇経験者に交じって、それなりの存在感を出している。演技経験のない者を使いこなすディレクターもさすがだなあと思う。

と、ここまで書いたら、彼がNHK朝ドラ「なつぞら」で出演が始まったことを知った。物書きを目指す北大生役だ。須藤君、頑張れ!

(by 新村豊三)

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