日本映画の佳作3本「糸」「れいこいるか」「人数の町」

今回は日本映画の佳作を3本紹介したい。

まず、公開が延びた「糸」。中島みゆきの同名の歌にインスパイアされて作られたラブストーリーだ。

映画「糸」監督:瀬々敬久 出演:菅田将暉 小松菜奈 山本美月ほか

監督:瀬々敬久 出演:菅田将暉 小松菜奈 山本美月ほか

平成元年に北海道で生まれた中学生の少年・少女が夏祭りで知り合う。お互い惹かれあうが、様々な運命によってすれ違う。そして平成の終わり、正に令和の元号が発せられる時、再会を果たすというベタなメロドラマなのだが、これがどうして、少年少女の純愛と、大人になった二人の一途さに心打たれるし、また、「これぞ、演出」と言いたい程の監督の手腕に酔ってしまうのだ。
加えて、ワイドスクリーン画面の撮影がいい(特に北海道)。

舞台は北海道、東京、沖縄、シンガポールと広がりを見せる。平成史を背景としているので、バブルの破綻、東北の震災、日本人の海外への企業進出なども描かれる。大人になった主人公のひとり小松菜奈は、シンガポールでネールアートの起業を行い、もう一人の菅田将暉は北海道に残ってチーズ工房に勤務する。
監督は実力派の瀬々敬久なのだが、演出に関して特に次のシーンが素晴らしい。
中学の頃、少女が義父から家庭内暴力を受けていることを知った主人公の男の子は、女の子を連れて雪の中を逃げていくが、あえなく追ってきた警察に捕まってしまう。雪原に、少年の腕にあった赤と白のミサンガが落ち、少年が抵抗する中、ゆっくりとカメラが上がり、初めてタイトルの「糸」の文字が出るシーンに感心。
もう一つ、小松菜奈が函館からフェリーに乗ろうとし、それを菅田将暉が追うシーン。ここの、客でごった返すフェリー乗り場で二人が会えるか会えないか、もうじらしにじらす(?)演出が外連(けれん)と言いたいくらいに上手く、この快感こそ映画だと言いたくなって来る。抱き合う二人の背後で花火が上がる演出は名作「ポンヌフの恋人」(91仏)に負けていない。

「れいこいるか」監督:いまおかしんじ 出演:武田暁 河屋秀俊ほか

監督:いまおかしんじ 出演:武田暁 河屋秀俊ほか

次の一本は「れいこいるか」だ。1995年の神戸の震災から始まる25年に及ぶある夫婦の話だ。不思議な題名は、震災で亡くなった一人娘の「れいこ」に呼びかける言葉と、その娘が持っていたイルカのぬいぐるみを掛けている。
テーマは、長く、ゆるく続いていく男と女の縁であり、愛の話と言ってもいい。二人は、どこにでもいそうで平凡な、でも、この日本で人生を生きている男と女だ。だから、自分と地続きでリアルな感じがする。
全編関西弁でダイアローグが行われる。よって、これから、関西弁で感想を書いていく。お許しあれ。

-――関西文化は、何というか、誰でも受け入れてくれてええなあ。みんな温(ぬく)いなあ。昼から酒飲ましてくれる、あんな酒屋行ってみたいわ。この制作会社、ピンク映画会社やさかい、お金もかかっとらんし(270万、信じられん)、俳優も誰も知らへん。でも、ほんま、存在感のある人ばっかりや。奥さん役の武田暁という人は男好きのする感じをよく出しているし、サングラスを掛けるとウォン・カーウァイの「恋する惑星」(98)のブリジット・リンみたいだったで。でも、夫役の人(河原秀俊)がとても良かったんや。終盤、「あるところ」から出てきて、坊主頭で、穿いてるズボンが短くちんちくりんなところがとてもええ。夢を追って挫折してみじめで、でも生きて在る、その様子がとてもええんや。――

元に戻します。佳作だと思うが、自分の中で、作品の重みが時間と共に増していくかもしれない。その他、10何年も同じ黄色いジャージを着ている頭の少し弱い、自分を地球防衛隊と思っているお兄さんも好き。ラストにガーンと出る、長田駅前の「ある物体」と彼が一緒に映る「絵」も良かった。やっぱり「神」は見ているぞ、という作り手の視点だろう。

さて、好きな映画をもう一本!

「人数の町」監督:荒木伸二 出演:中村倫也 石橋静河 立花恵理ほか

「人数の町」監督:荒木伸二 出演:中村倫也 石橋静河 立花恵理ほか

荒木伸二という新人監督がシナリオも書いて撮った作品が「人数の町」だ。日本映画には珍しい近未来のSF的ディストピア映画だ。
若い男(中村倫也)は借金がかさみ、収容所に入ることになる。食事もあてがわれ、セックスも自由に出来るが、そのかわり、敷地の外には出られないし、選挙は知らない候補者に入れなければならない。つまり、真の自由はない。見ているうちに、これは現代の風刺だと気づく。

収容所で知り合った少女の伯母(石橋静河)が登場する後半はなかなか面白い。中村と石橋の自然な演技を引き出して、監督は頑張っている。収容所の件にもう一押しあればもっと面白くなっていたと思う。

(by 新村豊三)

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