ポーランドとイランの激しくヘビーな映画を3本紹介したい。映画館で見たからこそ、より強い迫力を感じたのかもしれない。
まず、ポーランド映画の「聖なる犯罪者」。今まで見たことないような異色作で最後まで惹きつけられる。少年院を出た若者が、偽物なのに、田舎の村の教会の司祭になりすますストーリー。現代ではあるが、中欧のポーランドの地方の人の宗教と生活の関係も窺え(教会での「告解」もあるし、大事な行事には司祭がいる)、中高年は未だにこんなに神を受け入れているのかと驚く。一方で、スマホを使いドラッグを楽しむ若者たちの現代的なリアルな描写もあり、やっぱりこうだよなと安心(?)する。
主人公の若者が村人に受け入れられる過程も面白いが、ある事故を巡っての村人同士の葛藤が若者の「なりすまし」に見事に絡む。
主役の若者に存在感がある。凶暴さと繊細さを併せ持つ。役者は皆いい。演出も優れ、ロングで風景を捉える撮影のセンスもいい。
テーマは、はっきりとは打ち出されない。いろんな受け取り方があるだろう。宗教の現代における意味とは何か、現代の僧職とは正規の教育を受けなくても出来てしまい、むしろ、今の問題に合わせた新しい対応の方が信頼を得るのではないかという暗示。「赦し」の意味とは何か。犯罪者を赦せるか。そんな沢山のテーマがないまぜになっている。だからこそ、単純な映画でなくてこの映画に惹きつけられたのだと思う。
次にイラン映画「ジャスト6.5 闘いの証」。これは凄い映画だった。凄いという感想は「映画の表現」と「イランの現実」に対してである。これまで、90年代から「友達のうちはどこ?」などで、イラン人のイメージを漠然と抱いていたが、あれは実はイランのホンの一面で、実は大変な国だというのが分かった。むしろ、キアロスタミの映画は牧歌的な面しか伝えず、イランの理解には良くなかったのではないかと思う程だ。
この映画は面白いが、見ていて辛くなる個所もある。イランという国の認識が変わってしまった位だ。麻薬の犯罪組織を刑事が追う、そして売人の大物が留置場に入ってからを描く映画だ。とにかく圧倒される。アクション刑事映画、留置場映画(?)、そして社会派映画の要素がある。ひとつで括れない。そこがいいし、結構見ていて疲れもする。しかし、「映画」としての強度は素晴らしい。
最初の方の、土管に暮らす(!)貧しい人々を麻薬の疑いで追い立てるシーン、末端のヤクの売人の家を捜索するシーンからして、リアルで迫力がある。麻薬取引の大物を、彼が暮らすホテルのようなマンションのペントハウスに襲うシーンもいい。
そして真ん中の、警察の留置場のシーンたるや、何なんだ、あれは。狭い中に、麻薬で検挙された者がひしめき合っている。その人々は、プロの俳優でなく素人らしいが、見事な肥満もいるし、身障者もいるし、頭悪そうな人(失礼)もいるし、よく集めたと思う。犯罪関係者が日に数百人も逮捕され留置されている現実なのだ。
映画の後半は、捕まった大物兄さんの人生の話だ。見ていて、哀しくなった。イランはこんなに悲惨な現実なのか……この凄い映画が、弱冠31歳の監督の手になったなんて信じられない。脳天にガツーンと来た、では表しきれない。これが地球の、世界の現実か。溜息しか出ない。タイトルの「6.5」とは、麻薬使用者の人口650万である。イランは人口8000万だ。つまり、12人に1人が麻薬をやって人生ダメにしているのか。「世界平和」とか「人類の平等」とか、先進国の「言葉」はもう無力、これが現実かと思う。
好きな映画をもう一本! 「ジャスト6.5」にはやや劣るが、イラン映画の「ウォーデン 消えた死刑囚」も見ごたえがある(因みに「ウォーデン」とは刑務所長)。
時代は60年代、イラン革命の前。新しい刑務所を作るので、囚人たちを別の刑務所に移送したところ、死刑囚が一人いないことが分かる。所長は自分の昇進が掛かっており必死に探す。死刑囚は無罪であると訴える若くて美しい社会福祉士も登場する。
ラスト30分の、カメラが外の草原に出てからのサスペンスと緊迫感には目を見張る。カメラワークも見事で映画的興奮を感じてしまい、気持ちが昂った。
この2本で間違いなくイラン映画のイメージが変わる。因みに主演は同じ俳優ナヴィッド・モハマドザテーで、東京国際映画祭では最優秀男優賞を受賞している。
(by 新村豊三)