昨年のカンヌ映画祭で最高賞を受賞した「TITANE/チタン」という映画を全くの予備知識なしで見たが、ぶっ飛びの怪作であった。万人受けはしないだろうが、将来人気のカルト映画になるのではないか。この作品が、脚本も書いた女性監督の手になる、というのも驚きだ。
冒頭、交通事故が起き、生命を維持し生活できるようにするためなのだろう、幼い女の子の頭に金属が埋め込まれる。その金属こそが、タイトルのチタンであり、やがて成人した女の子は、ダンサーとなっている。
ガンガン響く音楽に載せて、モーターショーでの長い踊りが映される。女はセクシーな挑発するような踊りを見せ、車の上で寝そべったりする。その後の、彼女を追ってきた男に対する、突然の激しすぎる、リアルな暴力描写に思わず身を引く。男を殺してしまうのである。
女は、坊主頭になり若い男に成りすまし逃亡を始める。そして、何年か前に失踪した息子が帰って来たのだと思い込む初老の消防士と出会い、息子として家に入り、二人の共同生活が始まるのだ。
うっとおしくも硬質の人間ドラマと、よく分からないSF的展開(!)が妙な具合にドッキングしている異形の作品だ。何度も肉体を損傷するシーンがあるが、その痛みが伝わるのも妙だ。ちょっと書けないが、新人女優が肉体をさらけ出し、あそこまでやるんだなあと思う。
消防士を演じるのが、「君を想って海をゆく」などのヴァンサン・ランドン、彼がまたリアルな存在だが、ちょっと狂気も滲ませる。この映画を好きかと聞かれたらためらうが、面白さを感じてしまったのも事実だ。音響もスゴい。好悪がはっきり分かれるだろう。私は、これは何だと思いつつ、嫌いではない。
さて、「ポンヌフの恋人」等で大好きな異才レオス・カラックスの、期待を裏切らぬ、これまたヘンな快作が「アネット」だ。何とミュージカル。
歌姫(マリオン・コティヤール)と舞台芸人(アダム・ドライバー)が恋に落ち、結婚し子供が生まれ幸せに暮らすも、旅行の途中で嵐に逢い悲劇が生まれる。生まれた女の子には不思議な才能があって・・・、という話だ。
主たる登場人物たちと製作者(?)たちが集結し歩いていく長回しのファーストシーンとラストシーンから、まあ、あまりテーマにこだわらず、話の面白さとビックリの演出を味わう「一夕のお楽しみ」を作ってみました、という感じが伝わる。つまり、今度の新作は、「ポンヌフの恋人」のような、思い詰めたギリギリの愛の話などではなく、19世紀風ラフなドラマ(?)と、21世紀的ド派手、華々しいエンターテインメントが一緒になったような、カルトにもなるかという作品になっている。
フランスが舞台と思っていたら、アメリカが舞台で言語は英語。アダム・ドライバーが製作しただけあって、彼が出ずっぱり。歌を歌い、一人でコミックトークを延々とやる(体がデカいから、映画的に映える)。正直前半は、彼やマリオン・コティヤールが出ていても単調で、少しウトウトしたが、真ん中の嵐のシーンから、ええっという展開になり、引き込まれた。こういうのを奇想、奇譚というのだろうか。ラスト近くのスタジアムのシーンなんて、エンターテインメントが爆発した感じ。そして、登場するパペット(人形)の使い方がまた、上手いなあ。いい意味で作り物の虚構の面白さを堪能できた。
好きな映画をもう一本! これもフランス映画の「ふたつの部屋、ふたりの暮らし」。見る前、題名から、静かで淡々とした老女二人の滋味深い人生ドラマだろうと思いきや全く違っていて、「愛の妄執」と呼びたくなる、女性同士の恋愛感情を描き出すドラマだった。二人は見方によれば狂っている。しかし、「狂っている」ことこそ、愛なのかもしれない。
フランス南部のある街のアパルトマン(マンション)に、廊下を隔てて、二人の女性が暮らしている。一人は老女マド。夫は亡くなり子供も独立している。もう一人はドイツから来て当地に暮らす独身女性。
二人は愛し合うレズビアンの関係で、部屋を引き払い一緒にローマで暮らすことを夢見ている。マドの子供は二人の秘密の関係を知らない。ある日、マドが脳卒中で倒れる。何とか介護をしたい、傍にいたいと思う女の「狂人」のような行動が始まる。勝手に部屋に入るわ、介護の女性に嫌がらせをするわ…嗚呼、字数が足りぬ。サスペンスある傑作だ。
(by 新村豊三)