新年早々、ベストワン級の韓国映画を観た。「非常宣言」。ソウルのインチョン空港を飛び立ちハワイのホノルルに向かう飛行機に乗った若い男が殺人ウイルスを機内に持ち込んだため、機内が大混乱に陥ってしまう航空パニックアクション映画である。
乗客・乗務員共に感染し死に至る者もいる。機長・副機長、犯人も亡くなってしまう。さあ、どうする、乗客?
ある女性乗客の夫は、ソン・ガンホ演じる地上にいる刑事。また、小さな娘と一緒に乗り合わせた男性が、元パイロットのイ・ビョンホン。この二人が、家族と乗客を救わんと、それぞれ地上と天空で懸命に力を尽くすことになる。
この問題にどう対応するか、地上で政府テロ対策本部が出来て議論する様子は2016年の「シン・ゴジラ」のようだ。飛行機は感染の拡大防止のためアメリからも着陸を拒否され、何と日本に向かうと自衛隊機が飛んでくる……。
詳しくストーリーを書くのは避けるが、話の展開は間違いなく「シン・ゴジラ」より面白い。感染の可能性があるため、ソウルでは飛行機の着陸を巡り賛成派・反対派が、デモを行う展開もある。大きなスケールの映画だがヒューマニズムもある。人の生き死にとは何か、という問題さえ浮かび上がる。イ・ビョンホンの娘の発言により、誰が犠牲になるか、機内で話し合いが行われるのだ。これも見ていてなるほどと納得する部分がある。言うまでもなく、ウイルスはコロナの隠喩である。総じて、荒唐無稽でなく、リアルさがあるのがいい。だから展開に手に汗を握る。
さて、終盤は、肉体派のソン・ガンホ(そのマスク姿に、ああ、あんたも同じ困難な時代を生きていると、ジンとなる)と冷静な知性派イ・ビョンホンの大きな見せ場が待っている。すなわち、見事なスター映画にもなっている。
上映時間2時間20分、全く飽きない。映画はこうあってほしい。監督は脚本も書いたハン・ジェリム。この名を覚えておきたい。韓国映画は日本の遥か先を行っていると思う。日本で、シナリオも書いて、こんなスケール大きな質の高い映画を撮れるのは阪本順治監督しかいないのでなかろうか(「KT」「半世界」)。
私は韓国映画ファンだが、正直言うと、最近の、エグすぎる、人がバンバン死ぬ殺人映画・犯罪映画にはもう食傷している。支持する人もいるようだが、「哭声/コクソン」「アシュラ」(2016年)などは思い出しても嫌だ(笑)。この「非常宣言」は、エグくないのがいい。
韓国のパニック映画と言えば、これも2016年の「新感染 ファイナル・エクスプレス」という映画がある。私はこの映画もダメなのだが、無茶苦茶面白いという映画ファンも沢山いる。
簡単に触れておきたい。原題は「釜山行き」。ソウルから釜山へ向かう韓国の新幹線(KTX)の中のパニック映画なので、邦題を当て字で「新感染」と名付けた人のセンスには脱帽する。
この映画は、ゾンビが新幹線に乗り込み、暴れて人を噛むと、噛まれた人が感染し、凶暴なゾンビとなって別の人を襲うのだ。この映画は、新幹線に乗り合わせた何組かの乗客が襲い来るゾンビと戦う姿を描く。
人気の高いコン・ユ、最近人気を不動のものにしたマッチョ俳優マ・ドンソクたちの活躍が見ものだ。しかし、ゾンビ発生の理由もよく分からないし、結末に至っては、私の映画観と少し違うのだ。
好きな映画をもう一本! 新年早々期待しないで見たら、意外や面白くてハッピーな気分で映画館を出ることが出来たのが「ハッピー・ニュー・イヤー」。クリスマスから大晦日に掛けてソウルの高級ホテルに宿泊している何組かの群像ドラマである。
この手の映画の定跡だろうが、登場人物をうまく絡ませている。出色なのは、公務員受験浪人の若者が(韓国はこの試験が大変なのだ)人生を悲観して、自殺しにやってくるが、「モーニングコール」の女性に助けられていく話。それと、ホテルでコンサートを行った、売れ出した若手ミュージシャンと、彼を育ててきたマネージャーの移籍話。この二つがあれば映画として十分だろう。他にも、ホテルの契約社員と、ホテルのトップの御曹司との恋があるが、これは、まあ夢物語のご愛敬。
旬の俳優を使っているらしい。よく知らない俳優ばかりだが、日本人の俳優などに似ていて、何だか親近感を持った。契約社員は永作博美、御曹司は坂口健太郎、電話のオペレーターは酒井和歌子(古い!)、そしてマネージャーは行定勲監督を想起させた。
(by 新村豊三)